№98-R1.8月号 購入(買い取り)or 賃借(リース)

究極の質問

実務の現場でよくいただくご質問に「買った方が得ですか? それとも、借りた方が得ですか?」というものがあります。法人でしたら、工場などの敷地や高性能な機械、個人であれば社長のご自宅など、比較的高価で長期の資金繰りに影響を及ぼすことが見込まれる場合に重要な判断となるからです

以前は耐用年数の短い車両も比較の対象としてご相談を受けましたが、現在では減価償却が100%可能になったことやリース手数料が高いこと、オートローンの金利が低いことなどから、車両のリース契約自体を目にする機会が減りました。

この質問の本質的な部分は、要するに「どちらが得か?」というところなのですが、長期利用の案件に対して短期で決断を下すところにそもそも難があり、現時点で最善の選択という結論にならざるを得ません

持ち家か?賃借か?

近年、40歳以下の若い世代を中心に「持ち家」比率が上昇しています統計によれば、30歳代は52.3%で15年前との比較で約5.7%上昇しており、この背景には、「フラット35」などの長期固定金利型住宅ローンや住宅取得控除などの税制優遇があると考えられます。また、企業が社宅や家賃補助を減らしている現状も影響しているようです。

一方で、住宅ローンを含めた30歳代の家計の全負債額も1,329万円と2002年の1.8倍に膨らんでいます。それでも、自宅を賃借するよりも「持ち家」にメリットがあると考えている若い世代が多いということです。

対して「賃借」は、平均的に毎月の住宅ローン返済額よりは家賃を低く設定でき、ライフサイクルや居住環境の変化に応じて、比較的容易に住居を変えることができます。そして、何より多額の借金をする必要もありませんので、負担も重くなく、機動的です。しかしながら、定年間際で住宅ローンが終わる「持ち家」に対し、「賃借」は家賃負担が一生続きます

数カ月前に、金融庁から「老後30年で2,000万円の資金取り崩しが必要となる」という不都合な真実?(個人的には異論があります)が公表されました。この試算(男性65歳歳以上、女性60歳以上)の中でも、実支出263,718円の中に「住居費」が13,656円含まれていますので、「賃借」であればさらに支出が増えそうです。さらに、昨今では、大家や不動産会社が家賃滞納や孤独死への警戒感から、70歳を超えた高齢者に対して賃貸を拒否する実態が問題になっています

一概には言えませんが、これらを総合的に勘案すると、若い世代の「持ち家」志向が進んでいることにも頷けます。

支払総額以外の判断基準

企業の投資判断はどうでしょうか? 「工場の敷地を購入した方が良いか? 借りた方が良いか?」という問いに対しては、当然、想定契約期間での賃借料総額との兼ね合いもありますが、最終的な決め手はその土地の価値ということになります。つまり、その土地が将来も含めて価値が下がりにくく、すぐに買い手が見つかるかどうかがポイントです。

また、高額な機械への投資でも、購入とリース契約では金額での単純比較がしにくくなっています。多くの場合、リース契約は保守料やメンテナンス料を抱き合わせにしているためです

実際は通常の使用で問題がない場合でも、購入では故障の際に修理代が高く付く設定になっていることで、リース契約に誘導されているパターンが多く見られます。その他「ものづくり補助金」などで、購入のメリットが大きい場合にも、不具合への不安からリース契約を選択せざるをえないというケースもあるでしょう

このように法人であれ個人であれ「長期投資」は不確定要素を過分に含んでいます。法改正や金利変動、代替品の出現、自然災害の影響など、予測しがたい事態も今まで以上に発生頻度が高まってきています。これらを踏まえて、専門家の意見や数字での根拠、将来の方向性をしっかりと吟味したうえで、可能な限り精度の高い判断をしたいものです。

 

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