№167-R7.5月号 金は最強の実物資産
相場急騰の背景
ここ数年「金」の価格が急騰しています。このレポートを書いている時点で、相場は1gあたり17,035円です。25年前の同じ時期が1gあたり1,064円でしたので、この間に相場は16倍以上になっています。今では1㎏の金地金(インゴッド)を購入するのに1,700万円必要ですが、25年前は100万円程度で入手できたわけです。
国内では円安がもたらす輸入価格の上昇が引き金となり、最近では供給不足(米価が良い例)も物価に影響を与える動きが加わり、インフレ圧力が強まってきています。インフレ傾向が実物資産である「金」の相場を押し上げていることもありますが、トランプ政権下での関税政策を始めとした強権政治がドルから「金」へのシフトを加速させていることも事実です。
個人的には、ドルの相対は他国の通貨ではなく「金」しかないと考えていますし、実際に統計上も長期間ドルと「金」価格は逆相関になっています。短期間でここまで上昇することは予測できませんでしたが、経営者個人の資産配分としても、本来は選択されるべき構成アイテムのはずです。
以前から、政府が掲げる「貯蓄から投資へ」という標語のもとで、FPや投資の専門家が株式・投資信託、不動産への投資は積極的に資産運用を推奨していますが、何故か「金」についてはほとんど触れていません。
価値や信用を担保する事実
株式や投資信託は、企業業績や国の情勢に大きく左右されますし、土地は流動性が低く、国内の一部地域を除いて今後値上がりは期待できません。一方で「金」には、今後も安定資産であり続けるいくつかの裏付けがあります。
その一つは希少価値です。6000年の間に採掘された「金」の総量は約20万トンで、WGCの調査によると、地球上に残る未採掘の金の埋蔵量は残り約5万トン前後と言われています。オリンピック公式競技用プール約3杯分が既に流通していて、残りはプール1杯分に満たないということです。
他にも、「金」は歴史的に長い期間その価値を認められ続けている信用があります。日本史においても、金印(漢委奴国王印)を贈られた時代から富の象徴や貨幣として用いられていますし、1897年に明治政府の貨幣法制定で、1円を金0.75gと定める金本位制が確立されてから1942年に廃止、管理通貨制度に移行するまで通貨の担保的な役割も果たしてきました。現在、基軸通貨とされるドルの歴史でさえ240年程度です。
さらに、1848年に米国に端を発し世界各地に広まったゴールドラッシュも然りですが、全世界で常に価値が認められていることも安定資産と言える要因となります。自国がハイパーインフレや通貨危機で破綻しかけても、「金」で保有していれば、どの国でも換金価値が保証さるのです。
保有の注意と予備知識
敢えてデメリットをあげるとすれば、実物資産ですので自身で管理しなければならないことでしょう。1㎏の金地金(インゴッド)でしたら保管する場所はさほど問題なさそうですが、10㎏以上となると安全管理上不安がつきまといます。
最近では、貸金庫も万全とは言えません。余談ですが、金地金には盗難防止や品質保証を目的として、シリアルナンバーが刻印されています。購入者の情報と紐づけてデータが保管されているため、税務署が照会をかけるとすぐに所有者が判明する仕組みができており、相続や贈与で租税回避をするのことは困難です。ただ、税理士の話を聞く限りでは、資産家でも相続税の申告時に相続財産として金地金があったケースはほとんどないとのことです。
冒頭で金相場の急騰に触れましたが、特にこの5年が顕著で3倍を超える勢いです。金地金の購入には消費税と手数料(500g未満)が上乗せされますので、投資だとしても購入にはある程度まとまった資金が必要になります。
法人で余剰資金があれば、資産として「金」を所有することもお勧めです。モメンタムの強さと手数料が割高という理由で、純金積立には消極的な見解ですが、少額で金相場に興味を持ち、資産構成に「金」を加えるという意味では良い契機でしょう。「土地神話」の時代の地価と異なり、時間をかけて上がり続ける金相場、今後の動向に注目です。
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