№99-R1.9月号 マーケティングの勘違い
マーケティングの定義
ビジネスを行う上で「マーケティング」は欠かせません。「マーケティング」は概念ですが、実際にこれを正しく把握して経営に活かしている企業は少ないのではないでしょうか?
『ウィキペディア(Wikipedia)』では「企業などの組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」ための概念である」と紹介されています。
また、米国マーケティング協会は「マーケティングとは、顧客やクライアント、パートナー、さらには広く社会一般にとって価値のあるオファリングスを創造・伝達・提供・交換するための活動とそれにかかわる組織・機関、および一連のプロセスのことを指す(2007年)」と定義しています。
これらの内容からも、マーケティングを企業側がより多くのクライアントを獲得することやシェアを拡大するための手段と捉えていたとしたら、そもそも大きな勘違いです。正しくは、常にお客様目線で思考し、いかにお客様に価値を提供するかを実践する活動であるといえます。
すなわち、企業目線での活動はマーケティングには当たりませんので、経営する立場で少し定義が曖昧だとしたら、早急に記憶データの書き換えが必要です。
営業との違い
マーケティングと混同しがちな用語に「営業」があります。営業は、言うまでもなく、自社の商品やサービスを熟知し、法人・個人を問わずお客様に購入を促すことで売買契約を締結するまでの一連の活動です。営業を契約に結びつけるためには、もちろん、お客様との関係は重要になりますが、主体は企業側(売り手)ということになります。
例えば、営業には「販売促進」が伴いますし、基本的にアフターフォローなどの販売後の活動はありません。一方、マーケティングは、前述の通り、お客さま主体の活動のため、商品・サービスの開発以前(要望)から販売後までを対象にしています。また、ターゲットがお客様という営業に対し、マーケティングは市場全体であるという捉え方もできます。
つまり、「営業マン」は存在しますが、「マーケティングマン」は存在せず、「営業活動」と「マーケティング活動」は大きく異なります。ただし、これは優劣の問題ではなく、ビジネスにとってはどちらも大切な活動ですので、この機会に違いを明確にしておいて下さい。
ドラッカーの名言
経営学者のピーター・ドラッカーは名著『マネジメント』の中で、「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。…その他の機能はみな、「コスト」だけしか生まない」と言い切っています。
また、マーケティングが販売と異なる概念である理由としても、同著の中で「本物のマーケティングというものは、顧客から、つまり顧客の人口統計、現実、欲求、価値観から出発する。「わが社が売りたいと思うのは何か」と問いはしない。「顧客が買いたいと思うのは何か」と問う。また、「これこそ、わが社の製品にできること」と、いいはしない。「これこそ、顧客が探し求め、価値を認め、必要としている満足感である」というのである」とも述べています。
『マネジメント』は自分自身にとってもバイブルのような一冊ですが、マーケティングを学ぶ際にも本質を理解するうえで大変有益な著書です。
「本当に良い会社は営業をしない」と言われますが、最後に、同じくP.F.ドラッカーの著書『断絶の時代』の中の「販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は販売を不要にすることである」という部分をご紹介し、マーケティングの奥の深さを実感していただければと思います。
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