№96-R1.6月号 景気後退局面での消費増税

予定通り10%へ

前月20日、内閣府より1~3月期の国内総生産(GDP)速報値が発表され、大方のエコノミストの予想に反し、実質で前期比年率換算2.1%増と2四半期連続プラスとなりました項目別に見ますと、公共投資や住宅投資が伸び、肝心な個人消費や設備投資は減少していますので、プラス成長とはいえ決して楽観視できる状況ではなさそうです。

また、輸出も2.4%マイナスですが、輸入の減少幅(マイナス4.6%)が上回ったことでGDPにはプラスに寄与しており、一般的に貿易収支は輸出超過の状態が望ましいものの、輸入の減少は一方で内需の弱さを反映しているという見方もできます。今回の結果は、表面的にはプラス成長ですが、個人消費や企業の設備投資、輸入を含めた内需に今後の不安を大いに残す内容であったというのが個人的な見解です。

そして、24日発表の5月の月例経済報告でも「景気は緩やかに回復」という認識を維持しましたので、依然として足元の景気も回復基調との判断になりました。5月に注目されていた統計が出揃い、総じて景気は下降局面にはないという結論に至りましたので、参議院議員選挙の日程を考慮すると消費増税が予定通り10月に実施されることになります。

増税への不安

景気拡大局面が平成30年3月まで続くと、「いざなみ景気(平成14年2月~平成20年2月(73カ月))」を超えて戦後最長景気が実現します「いざなみ景気」の時もそうでしたが、多くの国民は景気の良い時はその恩恵を実感していないものです。

現在の「アベノミクス景気」でも大企業を中心に賃金は上昇しているのですが、実は2012年以降の6年間で消費増税(2014年4月~ 5%→8%)を含めた「消費者物価指数」は4.8%上昇しています。同期間で「名目賃金指数」が2.8%しか上昇していませんので、単純に実質賃金は下がっている計算です3%の増税分に対する名目賃金の伸びが解消されていないところに、

さらに2%の増税が追い打ちをかけることになりますので、景気の先行きが厳しいことは容易に想像が付きます。ポイント還元や「酒類と外食を除く飲食料品や週2回以上発行される宅配新聞」の軽減税率等の対策は打ち出されているものの、決済手段に多少の変化があったところで、消費支出の減少を食い止める手立てとしては相当脆弱な印象です。

過去にも触れましたが、日本のGDPに占める個人消費の割合は約56%で、その大部分を支えています。GDPを付加価値の合計と考えると、そこからの支出の大部分は人件費です。つまり、個人消費↓→GDP↓→給料↓という連鎖が起こります。企業も粗利(=付加価値)が上がらなければ給料を増やせないのと同じ理屈です。

消費は勢いを欠く

個人消費ですが、直近5月の月例経済報告では「持ち直している」と発表されました。しかしながら、家計が自由に使える可処分所得のうち、どれだけ消費に回しているかを示す「平均消費性向」は2018年度に69.2%なっています。2013年度は75.5%でしたので、5年間で約6%もの下落です。老後の将来不安から消費が貯蓄に移行していることが大きく、この傾向は今後も続くものと考えられます。

また、消費者心理を表す「消費者態度指数」も直近の5月末で8カ月連続の下落となりました。これらは月例経済報告とは異なり、実際に家計はかなり消費に慎重になっているということの裏付けです。ここしばらくは改元から東京オリンピックに向けた、いわば「お祭りムード」で進みそうですが、その先には2025年問題の到来や産業構造・雇用構造の変化、日銀やGPIFに支えられている株価の限界など多くの問題が立ちはだかっています。

複雑化する国際情勢も無視できない状況です。景気拡張期は然程実感がないまま通過しようとしていますが、景気後退期は企業業績や私生活に確実に影響を及ぼすことが予想されます今回の消費増税が景気悪化に拍車をかけることにならないよう願うばかりです。

 

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