№100-R1.10月号 消費税10%、増税と景気
消費税の矛盾
10月1日、消費税率が予定通り8%から10%に引き上げられました。食料品等の一部は8%に据え置かれますが、原則10%ということで、将来的な家計への負担が懸念されるところです。企業にとっても、実質「預り金」とはいえ、いざ納税の際には支払額が多額になるため、納期に向けて概算額を積み立てるなど一層慎重な対策が必要となります。
この消費税、税率改定の都度感じることですが、導入当初は「国民に広く浅く、公平に負担していただく」という趣旨で出発しました。そのためか個人的には税率が上がるたびに「浅く」と文言に違和感を覚えます。安倍首相は「今後10年くらいは上げる必要はない」と公言したものの、一方で、政府目標の「2025年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化」に向けては税率を17~19%に引き上げる必要があるとの試算も出ています。
その後の追求で「首相が変わった後のことまで約束できない」とも発言していますので、10%はまだ道半ばと考えるのが妥当でしょう。
少し論点は変わりますが、「租税三原則」という言葉をご存知でしょうか? 財務省HPのパンフレット「もっと知りたい税のこと」には冒頭にこの原則が掲載されています。
「租税三原則」とは「公平の原則」、「中立の原則」、「簡素の原則」です。中でも「簡素の原則」は「税制の仕組みをできるだけ簡素にし、理解しやすいものにする」という意味なのですが、こと消費税に関しては税理士でさえ苦慮するレベルになりつつあります。
景気への影響
消費税率が5%から8%に上がったのが2014年4月で、この時は17年ぶりの改正でした。今回は5年半ぶりということで、一気に倍増したことになります。消費者サイドでみれば、短期間に物価が(人為的に)5%上がるということです。この5年半、戦後最大の景気拡大(継続中)にも支えられ、増税の負担は軽減されました。
それを示すのが「消費者物価指数(生鮮食料品を除く)」で、2014年度を100(2013年度は97.2)とした場合、最新の8月で101.7と1.7ポイント増加(物価の上昇)しています。つまり、「消費税を3%増税しましたが、さらに物価は1.7%上がったため、景気は拡大しています」というのが政府の見解です。
しかし、ここからさらに2%の物価上昇はどうでしょうか?2020年6月までの9カ月間はキャッシュレス決済普及促進のポイント還元やプレミアム付き商品券等の効果で実質増税分が相殺されますので、消費に然程影響はないと思われます。
問題は東京オリンピック終了後です。以前、「景気の拡大期には実感がないもの」と書きましたが、先日7日に内閣府より発表された「景気動向指数(速報)」では、ついに一致指数で景気後退の可能性が高い「悪化」の判断が示されました。米中貿易摩擦の影響が出始めたようです。足元がこのような状況の中、このタイミングでの増税にはどうしても悲観的にならざるを得ません。
「勢い」の違い
先回3%増税時には、安倍政権が発足し、首相の旗振りのもと「大胆な金融政策」で日銀が「異次元緩和」を実施し、その結果、円安や株高が進むことで輸出産業を中心とした企業業績が伸びました。
企業倒産件数も減少し、雇用においても、ミスマッチを除けば完全失業率や有効求人倍率も過去最良の数字です。インバウンド消費も4兆円規模を超えるまでに成長しています。
しかしながら、当時のアベノミクスのような勢いを現段階で感じることはできません。3本の矢の「成長戦略」もいつしか絵に描いた餅となってしまいました。
直近では、高齢者の就労機会を増やす目的で在職老齢年金制度を見直す厚労省案も浮上しています。具体的には65歳以上であれば、年金が減額される基準を月収47万円から62万円に引き上げるという内容です。
今後も続々と対策案が発表されることを期待しつつ、近い将来ディマンド・プル型のインフレが物価を押し上げるような正常な景気拡大が起こることを願っています。
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