№55-H28.1月号 雇用と消費の乖離

雇用は好調?

2016年は年明けから株式市場で中国経済の先行き不安や中東情勢の緊迫化、原油価格の下落など投資家心理を悪化させる要因が相次ぎ、日経平均株価も大き下落して始まりました。

また、8日に内閣府より発表された27年11月の景気動向指数も、景気の現状を示す一致指数が前月比1.7ポイント低下して111.6と2カ月ぶりに悪化し、8つの構成指標がすべてマイナスとなるなど日本経済の足踏み感が強まってきています

そのような中、雇用の状況を示す統計は昨年より前例のない好調さを示しています。1人あたりの求職者に対してどれだけの求人数があるのかを示す「有効求人倍率」は、同じ27年11月で1.25倍と23年10カ月ぶりの高水準、「完全失業率」も3.3%とバブル期を彷彿とさせる勢いです。

しかしながら、内容を精査すると、雇用者数は増えているものの、その多くが短時間労働者で、1人あたりの労働時間はリーマン・ショック前と比べてむしろ5%程度減っているという事実が判明しました。

最新の雇用統計調査では、非正規雇用者の割合が実に37.9%と過去最高レベルに達しています。こうした現状から雇用者数の増加が必ずしも全体の賃金の増加に結びついていないという実態が浮かび上がってきます。

実質賃金は上がっていない

企業の業績好調により、多くの企業で昇給やベースアップがされていますが、「実質賃金」という考え方ではどうでしょうか? 例え給与が前年比で2%上がっていても、物価が3%上がっていたとしたら、実質1%の賃金減少と同じ状況になります。

26年4月に消費税が8%に上がった際には、多くの従業員の実質賃金が下がりました。原油安でCPI(消費者物価指数)が伸びず、昨年の5月には前年対比で実質賃金は一応下げ止まりましたが、消費増税時との比較では依然実質賃金はマイナスです。

また、11日の新聞報道では、「社会保険料の負担が賃上げの半分打ち消す」という見出しで経団連の調査報告が掲載されていました。

この記事では、「2014 年度の年収ベースの平均給与額は2年前に比べて11万4千円増えた一方、保険料負担も5万2千円増加した」ことが指摘されており、社会保険料が企業の人件費負担の増加と従業員の可処分所得を減らすことに対して制度の改革を求める内容となっています。

このように、実質賃金や可処分所得の増加という観点で見ると、報道のような景況感とは乖離があり、「手取りが増えた」「生活に多少余裕ができた」という実感が湧いてこない理由がわかります。

個人消費を伸ばす

以前も述べましたが、GDPの約57%は個人消費で占められています。つまり、個人消費が伸びなければ、GDPも伸びず、給料も上がりません。首相はアベノミクス「新三本の矢」の目標の一つに「GDP600兆円」を掲げました。名目国内GDPが20年以上伸びていない現状で、5年で100兆円増やすことは無謀に近い宣言のようにも感じられます。

ともあれ、肝心なことは、いかに個人消費を伸ばすかということです。実質賃金が伸び悩む中、来年4月には軽減税率は一部考慮されるにせよ消費税がさらに2%上がることが決定しています。消費者は賃金が上がり続けない限り、家計では節約志向が増し、消費とは裏腹に貯蓄を優先することになるでしょう。

最近では「老後破産」や「下流老人」などという言葉も将来不安をあおっています。また、長いデフレで節約志向が染みついてしまっている感覚も否めません。

前述の通り、現段階では雇用増が消費増には結び付いていないというのが正しい認識です。今後、積極的な制度改革にも大いに期待をしたいところですが、 女性のさらなる社会進出や外国人労働者の受け入れを活発化し、世帯収入を増やし続けない限り、雇用と消費との乖離は一向に埋まらず、我が国の経済成長はありえないということになります。

 

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