№161-R6.12月号 経営継続の最大の敵
コントロールできない不安
当たり前のことですが、企業は規模の大小を問わず将来にわたって事業を継続していく前提(ゴーイング・コンサーン)で日々事業を営んでいます。最近では、環境・社会・経済の3つの観点から持続可能な状態を実現する経営手法である「サスティナビリティ経営」のような言葉も耳にするようになりました。
どの企業も自社を永続させるために日夜努力を続けているのですが、近年コントロールできない共通の不安が徐々に現実になってきているような気がします。それは気候変動(地球温暖化現象)です。記憶に新しいところで、今年の夏は気温が全国的に平年を大きく上回り、1898年から統計を開始した日本の平均気温偏差は過去最高を記録しています。
これは世界の平均気温も同様で、観測史上猛暑の記録更新は2023年に続き、2年連続です。エルニーニョ現象が発生すると、夏季は太平洋高気圧の日本付近への張り出しが弱くなり、気温が低く、日照時間が少なくなる傾向があると言われますので、今夏は昨年ほど暑くならないことを期待していましたが、結果的には真逆になってしまいました。
小笠原諸島で発生して予測不能なコースを進んだ台風5号のような異常気象も起こるようになっています。名古屋市の猛暑日は今年過去最高の39日を記録しており、専門家の見解では来年以降も夏の気温は下がらず猛暑は常態化するようです。
気候変動の影響
多くの現実を目の当たりにして、今後は気候変動リスクが経営を大きく左右する要因になると強く感じています。特に、農作物や魚介類の収穫は近年甚大な被害を受けており、昨年に続き、全国的にコメや青果類は猛暑の影響で収穫が大幅に減少していますし、海水温の上昇で魚の生息域が変化し、水揚げされる漁獲量が激減している状況です。
本来獲れるべき場所で生産物や海産物が収穫できなくなれば、農業・水産業の経営は継続できません。一時的な災害でも経営には大打撃ですが、今後もこのような気候が続くのであれば、業種変更や廃業も視野に入れざるを得なくなります。
観光産業においても、暑すぎて外出を控えることになればテーマパークや観光地の集客に影響がでますし、予測しにくい天候が続くことでもホテルや屋外イベントのキャンセルが増えるなど収益に一定のマイナス効果をもたらしかねません。
建設業も比較的工期が長くなっている印象を受けていますので、年間の受注件数が減少してしまえば単価を引上げても人件費の上昇に資金が追い付かず、間接的に経営を圧迫する流れになりそうです。このように、猛暑や予測しにくい天候が続くという前提では多くの業種で経営継続リスクが高まることになります。
気候変動対策は経営課題
気候変動リスクは経営の優先順位としては下位に置かれる傾向にありますが、近年の異常気象が異常でなくなる(常態化する)のであれば、直接影響を受ける業種はもちろんですが早急に対策を進める必要があります。多くの経営者が長年の気象データを根拠に最近の猛暑や天候不順を「異常」と感じていて経営計画が楽観的になっている印象です。
マクロ的な問題は軽視されがちですが、経営会議でも目先の執行に関わる事項ばかり重視してしまい、肝心な経営の部分が二の次になってしまっています。個人的には、先般の「コロナショック」より厄介な現象であり、何となく気付かないうちに日本経済全体に波及してしまう要因になり得ると考えています。
加えて、年初の能登半島沖地震のような予期できない自然災害の頻度も高まっている状況です。前述の通り、既に気候変動の被害は各地で発生しており、業種によっては死活問題になっています。BCPを作成することも重要ですが、BCPは災害が起こった場合の継続計画であり、その前段階で安定した持続的経営が可能になるよう対策しておかなければなりません。
今後、経営継続の最大の敵は気候変動(地球温暖化現象)だと思っています。「夏は基本が猛暑日で、雨や台風の頻度が高まっても粗利益を確保するためにはどうすべきか」のような経営課題に早期から取り組むことで、持続可能な経営への確度が上がるはずです。
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