№163-R7.2月号 来年度予算の勘所

増え続ける歳出

昨年末に政府与党の来年度(令和7年度)予算案が閣議決定しました。少し当初の勢いは薄れた感もありますが、「年収の壁」問題の落としどころやガソリン税の暫定税率廃止案も最終的に国会での予算案可決に影響するかもしれません。

今回の予算案ですが、一般会計の総額がおよそ115兆5000億円となり、常態化しているとはいえ財源の4分の1を国債に頼る厳しい財政状況が続く見通しですまた、3年連続で110兆円を超え、今年度の114兆3800億円を上回って過去最大を更新し続けています

歳出の最大額は、周知の通り、「社会保障費」です。高齢化に伴う医療費や年金などは、薬価引き下げ等の効果もむなしく、年金給付額の増加や医療従事者の賃上げ、少子化対策の強化等で38兆2778億円(今年度37兆7193億円)に増加しています。ただ、社会保障費」は着実に増えていますが、金額自体は他の費目に比べて伸び方が「著しい」とまでは感じません

その他、歳出額第4位の「防衛関係費」は、5年以内に抜本的強化を目指す中、8兆6691億円(今年度7兆9172億円)に増えています。以前は「GDP比1%」のような目安がありましたが、ロシアのウクライナ侵略を機にNATOの「GDP比2%」を基本方針としていくような議論も出ているようです。中国の尖閣諸島への侵入が度重なる中、米国のトランプ政権への移行で今後防衛費のさらなる増額が求められる可能性が高まることでしょう。

 

見逃せない歳出

国家予算の歳出といえば、報道等も含めて前述の「社会保障費」や「防衛関連費」の増加に注目が集まりやすくなっています。しかし、私が最も懸念しているのは歳出額第2位に静かに君臨している「国債費」です来年度予算額は28兆2179億円(今年度27兆90億円)、「社会保障費」や「防衛関連費」と比較していかがでしょうか。「国債費」は国が発行した国債等の償還金と利払い費の合計額です。

後ほど、歳入につても触れますが、歳出が増えて税収で賄うことができない部分は、原則赤字国債を発行することになります。その元本と利息を国は順番に返済しなければなりません。「プライマリーバランスの黒字化」目標は絵に描いた餅としか言いようがない状況です。赤字の累積額が増えると、民間も同様ですが「利息」という厄介な敵が登場します。

元本の償還は一定額に抑えられているにしても、利払い費の増加は歳出に大きな負担を課すはずです仮に普通国債の残高を1,100兆円とすると、国債の金利が1%上昇するだけで11兆円もの歳出増加につながってしまいます。この額は、来年度の「社会保障費」の増加額の20年分相当です先月の日銀の政策決定会合では、政策金利が0.5%に引き上げられました。FRBの動向にもよりますが、年末までにはもう1回利上げが予測されています。今後、歳出面の「国債費」は「社会保障費」の上昇以上に注視すべきかもしれません。

 

税収不足の常態化

一方、歳入とへ目を移しますと、物価上昇や堅調な企業業績などを背景に税収が過去最大の78兆4400億円(今年度69兆6080億円)になると見込まれています税収の主な内訳は、所得税23兆2870億円、法人税19兆2450億円、消費税24兆9080億円です。

中でも所得税、法人税の伸びが著しく、国内景気は活況を呈していると思いきや、足元で中小企業の景況感とはかけ離れている感じがします。税収の上振れを想定し、特例公債の発行予定額は21兆8580億円と当初予算より約6兆円の減額となるものの、将来への借金の先送りは積み上がる一方です。

さらに、今後は金利が上昇傾向にありますので、日米金利差が縮まることで為替が円高に振れ、米国の関税等の影響を受けることになれば、企業利益が減り、今後は税収減への懸念も出てきます。近年続いている「過去最大税収」はずっと続くわけではありません。国は借金の改善策も示さずに赤字決算が永年続いても借り続けられるのであれば、民間の赤字体質の企業に対しても示しがつかないのではないかと思います

 

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