№162-R7.1月号 出張旅費規程の見直し
見直しの動機と曖昧な基準
近年の物価、サービスの上昇に伴い、出張に関連する諸経費、中でも宿泊費や旅費、飲食代が高騰している印象です。弊社においても、東京へ出張する機会が多く、特にホテルでの宿泊費の値上がりが顕著なため、当期より「出張旅費規程」の一部改定を実施しました。
東京ホテル会の調査によると、加盟する約260のホテルの平均客室単価は2024年8月時点で16,556円となっており、2019年同月の10,804円と比較すると、この5年で約1.5倍上昇したことになります。
その要因としては、コロナ禍明けの出張や旅行需要の回復、円安によるインバウンド消費による影響が考えられますが、長期間「出張旅費規程」を見直していない会社では、これまでの宿泊費や日当の基準では差額が不足してしまう状況です。
この「出張旅費規程」、経営者にとっては、ちょっとした「お小遣い」稼ぎの有難い規程で、節税策としてもよく利用されます。節税本やYouTubeなどでもお馴染みの手法です。
ご存知の通り、出張にかかる宿泊料と日当については「通常必要と認められる範囲のもの」で金額を設定していれば、会社の損金にできるとともに、出張者が非課税で受け取ることができます。しかし、「通常必要と認められる範囲」とは「役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている」こと、「同業種、同規模の企業が一般的に支給している金額と照らし合わせて相当と認められる」額と表現されるにとどまっており、具体的な金額は曖昧なままです。
「通常必要と認められる範囲」の解釈
宿泊料も然りですが、日当が非課税である趣旨は「出張にともなって発生するであろう食事代などの費用」を日当として支給することで実費弁償したことにする、という考え方に基づいています。しかし、一般的な「出張旅費規程」では、宿泊料、日当ともに職位によって支給額が定められている場合が多く、社長は税理士と相談のうえ自社で支給可能な上限を決定しているのが実情です。
また、「通常必要と認められる範囲」は「社会通念上」や「経済合理性」などと同様に判断しにくい表現なため、より誠実に金額を決定しようとする会社では、国家公務員や内閣総理大臣の旅費を参考にしているケースも見受けられます。ただ、会社は節税となり、経営者は非課税収入が得られる魅力的な「出張旅費規程」ですので、どうしても経営者優遇の内容に偏りがちです。
例えば、営業等で出張の多い経営者が毎月、宿泊料と日当で50万円、役員報酬30万円を支給しているような場合はどうでしょうか。決算書上は、役員報酬より旅費交通費が異常に多く、直感的にどこかアンバランスでグレーな印象を与えてしまうかもしれません。
最近では、「県庁所在地、特別区及び政令指定都市」などの指定地域と「それ以外の都市」など出張先によって宿泊料、日当を区分する規程も増えており、より時流に則した観点から弊社もこの区分を採用することにしました。
旅費法改正と旅費精算書
国家公務員が出張する際の宿泊料を実費支給にする改正旅費法が2024年4月に成立し、今年4月に施行されます。宿泊料はこれまで定額支給とされていましたが、実費支給の上限額を省令に盛り込む仕組みに変わる予定です。これにより円安の進行やインフレに応じて法改正をせず柔軟に金額を見直せるようになるとのことで、実に約40年ぶりの改定になります。
国家公務員の宿泊料が上限付きの実費支給に変更となれば、会社の「出張旅費規程」においても「実費弁償相当額」から「実費」が原則となるかもしれません。税金を原資とする宿泊料との単純な比較や同調は重要ではありませんが、税務調査での反論根拠は明確にしておく必要はあります。併せて「旅費精算書」の整備も必要です。
「出張旅費規程」は十分に対策を施していても、「旅費精算書」の作成管理や記載内容の不備を放置している会社があります。出張費の正当性を担保する意味でも「旅費精算書」はマストです。宿泊料や物価の上昇、旅費法改正など、旅費界隈の環境が変わりつつあります。これを機会に自社の「出張旅費規程」を有利変更前提に見直してみてはいかがでしょうか。
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