№87-H30.9月月号 トヨタ、次世代にシフト

トヨタの現状

トヨタ自動車の提携が次世代に向けて着々とシフトしています。現在、自動車産業は、日本の主要産業であり、基幹産業の一角であることは言うまでもありません。

少し、データを参考にしますと、トヨタ自動車は昨年(2017年)の実績で、国内で318万台、海外で581万台、グループ全体(ダイハツ、日野を含む)では1046万台を生産しています。これに対し、販売実績は、国内で160万台、海外で767万台、グループ全体では1022万台となっており、ここ数年国内販売が好調であるとは言え、生産に対しては過少であることがわかります

豊田社長は、雇用の維持も含め、公約通り国内生産300万台は死守しているものの、関税や為替等の不確定要素を考慮すると、海外での需要には、現地での生産・販売が効率も良いため、実際には悩ましい舵取りが続いていると言って良いでしょう

一方で、企業業績では、昨年、世界販売台数で3位、直近2018年3月期決算では過去最高の2.4兆円の最終利益(当期純利益)という輝かしい記録を達成しています。しかし、少し先に目を向けると、国内でハイブリッド車の普及が進む中、世界では次世代の主流と目されている電気自動車へのシフトが着実に進んでいます。今の業績好調に安堵するのと裏腹に、近い将来については一抹の不安を抱いているというのが多くの国民の偽らざる心境でしょう。

モビリティーカンパニーへ

前月もお伝えした通り、時代は「所有」から「利用」へとニーズが変わりつつあります。6月11日には、トヨタ自動車がシンガポールの配車サービス大手グラブ社に10億ドル(約1100億円)の出資を決めました。また、7月28日には、米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズにも5億ドル(約550億円)の出資を決め、2021年にライドシェアサービスを導入することも発表しています。

同時に、トヨタはパワートレーン(駆動系)の提携見直しで、8月3日にいすゞ自動車との12年間の資本提携に終止符を打ち、ディーゼルエンジンの共同開発を解消しました。近く、マツダへのハイブリッド車(HV)システムの供給を取りやめ、独BMWからのディーゼルエンジンの調達も停止する見通しです。

このように、ここ数カ月の動向からも、トヨタが自動車を販売する会社からモビリティサービスの会社へと急速に軸足を転換する姿勢が見て取れます。既存分野においても、マツダとの資本提携は維持し、米国新工場での合弁事業や電気自動車(EV)の共同開発は進め、スズキとも軽自動車のOEM生産は継続する意向です。

自動運転への取組み

自動運転への取組みも加速しています。それに向けては、8月27日に、自動運転車の中核となる制御システムを開発し、世界の大手メーカーや新興企業に販売する目的で、デンソーやアイシン精機などトヨタ系グループ4社が新会社を2019年3月に設立するとの発表がありました。併せて、デンソーとアイシン精機は、電動化の駆動モジュールの開発・販売の新会社を同時期に設立する予定です(出資比率は両社で50%ずつ)。

また、これに先立ってトヨタは、AIなど最先端技術を開発する研究所を2016年に米シリコンバレーに、今年3月にはそうしたAI技術を車に実装するためのソフトウェア開発会社を都内に設立しました。

そして、現段階では、2020年にも高速道路で車線変更ができる自動運転技術を実用化し、20年代前半には一般道でエリアを限定して完全自動運転が可能になる「レベル4」を目指した取り組みを強化しています

「CASE(つながる車や自動運転、シェアリング、電気自動車)」という新たな形の自動車ビジネスが世界で急速に普及し、トヨタはこうした流れに乗り遅れているのではないかとの懸念もありましたが、車を所有してもらうことに固執しないモビリティーカンパニーへの改革は、ここへ来て一気に加速してきた感じがします。人と自動車の新たな関係が訪れる日もそう遠くはなさそうです。

<複製・転写等禁止>