№91-H31.1月号 電池を制する者が・・・
リチウムイオン電池の進歩
「次世代を担う産業の最重要アイテムは何か?」と尋ねられたら、多くの経営者の皆様は「電池」と答えるのではないでしょうか。いつしか自動車やロボット、住宅、スマホやタブレット端末に至るまで身近な製品のほとんどに「電池」が利用されていることに気付きます。
実際、先端技術研究の分野でも各国が電池や電池材料の開発に鎬を削っており、研究論文の数でも多数が上位を占めている状況です。残念ながら、現時点では中国が先行しており、米国でさえ少し水をあけられ、日本はさらに後塵を拝しているという展開にあります。
専門的な知識はさておき、「電池」といえば今や誰もが第一に連想するのが「リチウムイオン電池」でしょう。「リチウムイオン電池」は日本のメーカーによって1991年に世界で初めて商品化され、主に携帯電話やノートパソコン、ビデオカメラに使用されてきました。
2009年には量産型EVに採用され、フル充電で走行距離200kmを達成し、現在、日産の新型リーフでは40分の急速充電で航続可能距離が400kmにまで伸びているようです。
研究者らは、この先10年くらいは「リチウムイオン電池」が使い続けられ、技術開発も進んで近い将来の500km突破に自信を示しています。経産省も今年度から、「リチウムイオン電池」をムダなく使い切ることを可能にする技術開発を進め、今年度予算に2憶5千万円を計上し、2023年までの実用化を目指す方針を打ち出しました。
2019年問題
今年はいわゆる「2019年問題」が表面化する年と言われています。「2019年問題」とは、2009年11月に開始した余剰電力買取制度(10年間は余った電力を割高で買い取る制度)の固定買取期間が満了を迎えることで、その後の余剰電力の取扱いをどのようにするか?という問題です。
電力会社に買取り義務がなくなるため、売電できなくなる可能性もあります。複数の電力会社は2019年11月以後も住宅用太陽光発電設備の余剰電力については、引き続き買い取る方針を公表していますが、買取価格は当時の42円/kwhを大幅に下回り、卸電力取引市場価格と同等の11円/kwhとなるようです。
しかしながら、ここでも蓄電池という救世主が登場します。電気代の値上がりが続いている昨今、「自家消費型のライフサイクルへの転換」の一環で、売電から自家消費へ切り替え、電気代を削減するという選択肢です。蓄電池があれば、昼間に発電した電気を蓄電し、夜間に使用することで売電期間終了後も太陽光発電システムを有効利用することができます。
初期投資は必要ですが、蓄電池も小型化が進み、価格もリーズナブルになっていますし、最近では、蓄電池そのものにAI機能が搭載され、天候や消費電力の予測、また曜日や時間帯を考慮して制御機能が働き、充放電を行えるものまで発売されています。
ポスト「リチウムイオン電池」
総合マーケティング企業の㈱富士経済の調査によりますと、蓄電池の世界市場は2030年に2017年比6.6倍の1兆2585億円規模になると予測されています。従来にない電極材料の開発で容量を大幅に増やす技術も進んでいますが、同時に次世代電池の研究も活発になってきています。
「リチウムイオン電池」の代替品となるべく、「ペロブスカイト太陽電池」、「ナトリウムイオン電池」、「リチウム硫黄電池」、「有機薄膜太陽電池」など、高効率かつ安価での供給が期待される次世代電池の名前も頻繁に耳にするようになりました。今後も、世界中でポスト「リチウムイオン電池」のデファクトスタンダード(事実上の標準)を巡る熾烈な開発競争は当分続くことでしょう。
急速に普及したスマホだけでなく、自動車や住宅も心臓部が電池になる時代が着実に迫っています。言い方を変えれば、今の基幹製造業はよりハイスペックな電池の調達を強いられるということです。「電池を制する者が世界を制す」に向けたシェア争いは既に始まっています。
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