№104-R2.2月号 粉飾決算の実情
粉飾決算と企業の事情
報道等でよく耳にする「粉飾決算」ですが、規模の大小を問わず、多くの企業が何らかの理由で手を染めてしまい、取り返しのつかない事態に発展してしまっています。
巨額な事例では、日産自動車、東芝、オリンパスなどの有名企業の「粉飾決算」が発覚し、経営者責任が問われたニュースはまだ記憶に新しいところです。このような事件が起こるたびに「監査法人は本当に気付かないのだろうか?」と素朴な疑問を抱いてしまいます。
「粉飾決算」とは、「会社が不正な会計処理を行い、内容虚偽の財務諸表を作成し、収支を偽装して行われる虚偽の決算報告」(Wikipedia)を指します。一般的には、決算書を操作して十分な利益を装うことや純資産が潤沢であるかのように見せかける作業が「粉飾決算」です。
では、なぜ中小企業は経営者=株主(同族支配)が多く、上場企業のように株主による圧力はないはずなのに、リスクを取ってそこまでする必要があるのでしょうか? 一つは、銀行などの金融機関からの融資を得るためで、資金調達の方法が限られる中小企業にとってはライフラインとなり得るからです。銀行は、連年赤字や債務超過の状態では基本的に融資を実行してくれませんし、金利や保証等の条件も厳しくなります。
また、業種によっては深刻な事情があり、建設・土木業などでは公共工事の入札条件で経営審査の得点維持が必要ですし、派遣業などでは事業許可要件の「資産要件」をクリアしなければなりません。事業存続という観点では、このような制度が不正を誘引してしまっている可能性も否定できないのではないでしょうか…。
粉飾決算の手口
具体的に「粉飾決算」の手口を見てみましょう。代表的なものが、在庫の水増し計上です。単価を上げる、または数量を増やすパターンが多いですが、中には集計表の合計だけを意図的に変えるという手口もあります。在庫の水増し計上は、消費税等の納付に影響しませんので、よく利用される手段になり易いのかもしれません。
次に、売掛金と売上を増やす作業です。翌期の売上を当期に計上するケースであれば、法人税や消費税等も前払いすることで解決しますので、傷口が少ない手法とも言えます。ひどいケースでは、架空の売上を多額に計上するというやり方も耳にしますが、無駄な税負担が増えて大変です。経費を操作する方法では接待交際費や出張旅費等を貸付金や仮払金に振り替えたり、減価償却費を少なめに計上(法人の場合)したりするなどして利益を水増しします。
これらの例を複合的に組み合わせることも可能でしょう。手が込んでくると、剰余金が潤沢であるかのように装って、配当金を出したりする例(「蛸(タコ)配当」)も聞きますが、納税も含めて資金負担がさらに重くなり、自らの首を絞めるだけの行為に過ぎません。「粉飾決算」は麻薬と同じで、一度手を染めると常習化してしまい、元の状態に戻すことは至難の業となります。
逆粉飾と粉飾決算のリスク
「粉飾決算」には、いわゆる「逆粉飾」というものもあります。こちらは、主に架空経費などを計上して利益を圧縮し、税金逃れ(脱税)をする虚偽の決算報告です。今回手口は割愛しますが、納税が減ることになりますので、税務署が常に目を光らせています。
「粉飾決算」をしている会社に税務調査が入ったときの状況を何度か聞いたことがありますが、不正行為に対するお咎めはないものの、売上洩れや経費の否認事項を指摘された際には、本来赤字で払わなくてよい税金を払うことになるので、相当痛手になってしまうようです。
このように「粉飾決算」は多くのリスクを孕んでいます。仮に融資が通ったとしても、詐欺罪が成立する可能性もありますし、そうでなくても融資金の一括返済を求められ、新規融資は不可能となるでしょう。
コロナウイルスが猛威を振るっていますが、この先経営難が訪れることがあったとしても、正しい決算報告こそが発展の近道であることを再考していただく機会になればと思います。
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