№106-R2.4月号 借入との付き合い方
迷わず借りる
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、7日には緊急事態宣言が発動され、終息の兆しが見えないことによる不安が多くの経営者を悩ませています。
このような最中、影響を受ける多くの経営者に共通する思考は「借入はしたいが、先々の返済負担を考えると躊躇してしまう」というものではないでしょうか。実際、現場でも何度かそのような声をお聞きしました。確かにその通りだと思います。
しかし、資金が不足する場合、借入をして存続するか廃業するかのいずれかを迫られることを事実として受け止めなければなりません。これはコロナ危機に限ったことではありませんが、多くの場合、私は迷わず「借入」をお勧めします。
先月号で日本政策金融公庫のセーフティネット貸付をご紹介しましたが、緊急経済対策で地方銀行や信用金庫にも実質無利子融資を拡大(予算3兆7500億円)することになり、資金を借りる上でのコストはほぼ無くなりました。据置期間も最大5年で設定が可能ですので、借りておいて急場をしのぎ、回復した段階で返済がスタートするのであれば資金は何とか回ります。
もちろん、猶予期間に経営計画を練り直し、V字回復を狙うという確固たる決意が前提となりますが、会社を存続させるためには借入を利用しない手はありません。
借入の役割
資金の調達は会社にとって最も重要な作業です。調達方法は大きく自己資本と他人資本に分かれますが、今回は他人資本の借入に着目します。
借入にはいくつかの重要な機能がありますが、一つは「備えとしての機能」です。この度のような不測の事態は運転資金の循環サイクルに支障をきたし、収入が激減してしまえば資金ショートを招く恐れもあります。
例えば、預金が100で無借金の状態と、預金が200で借入金が100の場合、純資産は同じでも企業体力は同じではありません。無借金は一見返済義務を負わずに身軽なようですが、いざという時には自由に使える資金は半分ですし、状況が悪化すれば銀行から借りるのも一苦労です。
そのため、平常時に融資を受け、「実質無借金」の状態にしておくことが正しい経営判断であり、これが「備えとしての機能」になります。
次に、「レバレッジ機能」です。仮に、確実に儲かる投資が存在するのであれば、誰もが借入をして資金投入をしたいと考えるのではないでしょうか。企業の成長という観点からも、設備投資を行い、生産量を増やして「規模の経済」や「範囲の経済」を実現するフローが最も一般的です。そのためのレバレッジをかける手段が借入であり、同時に成長スピードを加速させる役割も果たします。
借入のメリット・デメリット
借入の典型的なメリットは「期限の利益」が得られることです。つまり、1,000万円を返済期間10年で契約した場合、10年間借りたお金を返済しなくても良いという利益を得たことになります。あまり意識したことがないかもしれませんが、これは大きなメリットです。
しかし、返済を遅延したり、手形で不渡りを出してしまうとこの「期限の利益」は喪失し、残金の一括返済を要求されます。
一方、デメリットは「金利」ということになるかもしれません。ネガティブに考えれば余分な支出ですが、ラッキーなことに今は低金利時代です。さらに、利息は経費にもなりますし、前述した「備えとしての機能」を利用した場合は、保険料と考えることもできます。低金利、経費、保険料というキーワードで捉えれば、逆にメリットと言い換えても良さそうです。
最後に、借入をする際の鉄則として「返済期間は可能な限り長く設定する」ということを意識しておいて下さい。毎月の返済額が少なければ、不測の事態が発生しても資金繰りに支障をきたさず、金利負担が増えたとしても繰上げ返済はいつでも可能です。
借入と上手く付き合うか否かで長い間には企業経営に大きな差が生じます。この難局を乗り切るためにも、当面の手元資金を厚くする意味で、早い段階で借入を積極的に活用されることをお勧めします。
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