№108-R2.6月号 運転資金の知識

注意すべきは資金不足

先月25日、東京、神奈川、千葉、埼玉と北海道の緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常生活が戻りつつあります。しがし、経済活動は観光業や飲食店を筆頭にまだまだ回復には時間がかかりそうな様相です。

コロナ禍で資金繰りが悪化してしまい、この数カ月は給付金や補償金、融資の手続きに奔走された企業も少なくなかったのではないでしょうか。こうした状況において、改めて「資金」や「余剰金」の大切さを感じ、危機管理の重要性を学ぶ良い機会にもなりました

しかし、既に廃業や倒産に追い込まれた企業もあり、今後増加するとの予測も出ています。当然ですが、十分な資金があれば、会社は存続が可能です。そこで、今回は会社の血流とも言える「運転資金」について取り上げることにしました。

運転資金」とは事業を営むために必要な資金のことです資金は事業活動で得られる売上金や銀行からの借入金などで調達し、仕入や人件費、家賃などの支払いに充てることで循環します。受取手形や売掛金がある場合や現金で仕入れて予定通り販売できず、在庫が積み上がってしまうような場合には、いわゆる「資金ショート」を起こさないよう常に注意しなけれまなりません。黒字倒産」という実態があるように、会社は赤字になったときではなく、資金が止まったときに立ち行かなくなるのです

正常(経常)運転資金と正味運転資金

運転資金とは通常「正常(経常)運転資金」を指し、一般的に、卸・小売業、製造業の場合、計算式では正常運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務で示されます。対応する勘定科目は売上債権が受取手形や売掛金、仕入債務が支払手形や買掛金です。

例えば、受取手形=300万円、売掛金=200万円、棚卸資産=100万円、買掛金=400万円とすると、式に当てはめれば「正常(経常)運転資金」は200万円となります。

では、回収期日が受取手形3カ月、売掛金及び買掛金がそれぞれ1カ月というケースではどうでしょうか? この条件では逆に1カ月後200万円が不足し、いわゆる「黒字倒産」を引き起こします。昔から言われる商売の原則「回収は早く、支払いは遅くとは、この部分の回避策です。

つまり、計算上の正常(経常)運転資金」が正であることだけでは、会社の安全性は担保されないということになります。似た用語に正味運転資金がありますが、こちらはシンプルに流動資産と流動負債の差額です。主に資金運用の際に用いられますが、流動資産には現預金が含まれるため、その原資を長期借入金(固定負債)から調達しているときには過大計上されます現預金に余裕があると、実際は「正常(経常)運転資金」が不足していることに気付かない場合がありますので注意が必要です

銀行の視点

「正常(経常)運転資金」が自己資本で賄われていれば問題有りませんが、短期借入金で調達する場合、その額が「正常(経常)運転資金」の範囲内かが融資審査のポイントとなります。短期借入金は手形貸付や当座貸越のように、1年以内に返済義務のある借入金です。

先程の例では200万円以内であれば、その名の通り正常な運転資金ですが、それを超えてしまうと、運転資金に回っていないとみなされ、期日での手形書き換えは実行されない可能性が出ます

このように短期借入金は、本来「正常(経常)運転資金」に回すための融資ですが、近年、地銀や信金を中心に「運転資金の長期借入金化」が一般化してきました。事業計画に合理性や採算性、実現可能性が高いと判断されれば、運転資金は長期借入金でも普通に下りています。

以前、ある行員さんが「飲食店は現金商売だから、運転資金は必要ありません」と言うのを聞きました。「正常(経常)運転資金」を教科書通り理解しているという意味では感心しましたが、反面、昨年からの政府主導のキャッシュレス化で回収手段が大きく変わっている現状を把握できていないことは残念でした。融資対象としての運転資金の考え方も時代と共に変化しています。

 

<複製・転写等禁止>​