№112-R2.10月号 紀元前から変わらない真理

「恒産なくして、恒心なし」

先号では「お金を使うこと」の意味や役割についてお伝えしました。今回は、お金を使う前提として、ある程度の財産を持つことの重要性を説いた故事やことわざをご紹介します。

最初の言葉は「恒産なくして、恒心なし」です。これは中国の四書『孟子』にある記述で、一定の職業や財産を持たなければ、しっかりとした道義心や良識を持つことはできないと訳されます。意訳すれば、安定した収入さえあれば人々は悪いことはしないという意味です。

原文では、「恒産なくして恒心あり、若もそれ民に恒産なければ、因りて恒心無からん」と記され、「心構えとしては、普通レベルの定収入や財産がなくても、平常心を失わないことが大切です。しかし、もし一般の人民に、きまった相応の財産がなく、収入も不安定であれば、安定した気持を期待するのは無理というものでしょう」となります。

本音で語るのであれば人生を豊かにする方法」はある程度の財産があり、また一定の収入があるということが基本条件ということです。孟子は、中国戦国時代(紀元前300年代)の儒学者ですので、この言葉が長い年月を経て語り継がれている事実からも、ある程度真理に近い考え方と言えるでしょう。

「衣食足りて礼節を知る」

つづいては、中国の古典『管子』牧民篇にある「倉廩 (そうりん) 実 (み) ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱 (えいじょく) を知る」という一節で、「米ぐらが満たされてこそ道徳・マナーなどを知ることができ、衣食が足りてこそ 栄誉と恥辱の違いを知ることができる」と訳され、比較的ポピュラーな故事です。

生きるためには、体裁にこだわっている場合ではない → 誰かに礼節を求めるならば、まず生活を豊かにさせることが必要である → 生活が満ち足りたならば、作法や行儀というものにも配慮すべきである、と読み替えることもできます。

日本では生活の基本を表す言葉として「衣食住」が使われ、「住」も暮らしには不可欠で「礼節を知る」意味では大切な要素ですが、何故かここに「住」は登場しません。この言葉は『松下幸之助一日一話』でも触れられ、その中で松下氏は自己中心のものの考え方、行動を戒めています。「衣食住」が満たされると次は「遊・休・美」のニーズが顕在化すると言われますが、こちらはさらに財(お金)の余力があることが前提です。

「貧すれば(窮すれば)、鈍する」

最後は「貧すれば、鈍する」です。『故事・ことわざ辞典』には「貧乏をすると、毎日その生活のことばかり考えるようになるから、人は知恵や頭の回転が衰えてしまい、賢い人でも愚かになるという意味で記載されています。

また、「暮しが貧しくなれば、心までも貧しくなるものだということ」とも記されています。「貧すれば鈍するで、会社が倒産してから社長はまるで別人のように落ち目となった」という実に巧妙な例文も見つけました。

人は誰でも良い時もあれば悪い時もあると割り切り、たとえ貧した時でも「落ちるところまで落ちたのだから、気楽に行こう」とポジティブに考えることができれば、知恵や思考も衰えずにすみそうです。もちろん、資金がショートしないようにファイナンスすることはさらに重要になります。

以上、3つのフレーズに共通する教訓は冒頭で述べた通り一定の財産を所有することです。会社経営に置き換えれば、十分なキャッシュを保有することが重要で、資金に余裕があることで意思決定に幅を持たせることができるからです。

また、会社にキャッシュがなければ、切羽詰まった無理な営業を強いられますが、余裕があれば依頼や紹介を待つことができ信用も益々上がります

私個人としてはよろしければいかがですか」というスタンスで商売できることを理想としています。心理的に人は強引に営業をされる(売り込まれる)ほど引いてしまうものです。資金の余裕は心理的な余裕を生み、商売を一層有利に展開させます根拠は全くありませんが、お金を有効に使って回せば、不思議とお金は懐に(増えて?)戻ってくる気がします…。

 

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