№114-R2.12月号 自社主導の経営
見込み生産と受注生産
コロナ禍で消費が低迷する厳しい状況が続いています。今年は多くの経営者にとって「経験したことのない1年」になったことでしょう。前期対比で売上増加となった企業は限られていると思いますが、現状維持ができているのであれば、日頃から「変化に対応できる経営」、「持続可能な経営」を意識して取組みをしている成果です。
突然の外部環境の変化に対しては、そう簡単に適応しにくいものですが、自社の方針や目標などは欠点を見直す機会になる場合もあります。中小企業、特に製造業は取引先に対して立場的に弱く、危機時には受注が減少し、資金繰りが悪化してしまうケースが多いです。
取引形態からもその実態は把握でき、例えば「受注生産」では、主体的に生産はしづらく、予め仕様や数量、期日が定められたりします。何より景気の悪化や取引先が内製化で取引量が減ることも大きなリスクです。逆に、一定期間に受注が増えすぎることも人員や生産設備に限度があることから、十分に対応できないという問題も生じます。
同じ「受注生産」でも匠の技と言える生産量が限られた「個別受注」に近い製品となれば、話は別です。これが「見込み生産」であれば、製品を自社主導で作ることができます。人気が高く汎用性があり、半ば独占のような製品が理想です。需要が少ないモノであれば、余剰在庫のリスクを抱えることになるため、お客様志向の入念な市場調査や程々の先見の明が必要となります。
消化仕入と買取仕入
次は購入する側の視点です。仕入れは必要な量だけ調達することが前提のため、見込み生産では(売れる前提で)計画の分、受注生産であれば受注に相当する量になります。どちらにとっても「消化仕入」が可能であれば、一見問題はなさそうです。商品が売れた時点で購入が決まりますので、基本的に在庫リスクが発生しません。
ただ、大量購入できる「買取仕入れ」と比較すると利益率での魅力は落ちます。百貨店やアパレル業界で主流の取引ですが、最近ではこの「消化仕入」が不振の原因となっているようです。考え方によっては、在庫リスクがあるからこそ店側の販売努力につながるということでしょうか…。
業績好調で「見込み生産」が可能な企業は、在庫が積み上がる心配はなさそうですので、価格交渉も含めて「買取仕入れ」が有利になるかもしれません。自社主導ということを意識すると、仕入先を大手や商社に依存するのではなく、複数の取引先と良好な関係を維持することが重要です。仕入についてもトヨタ自動車のJIT(ジャストインタイム生産方式)に例えて「必要なものを必要な時に必要な量だけ」が到達目標になります。
金融機関との関係
銀行との関係も主導権を握るか否かは経営に大きく影響します。借入について言えば、保証協会融資(マル保融資)かプロパー融資かという基準です(詳細は第92号に記載)。債権を銀行から信用保証協会に移すことができるマル保融資に対して、プロパー融資は債務不履行のリスクをすべて銀行が負うことになるため、業績の良い会社にしか提案はありません。当座借越し契約も優良企業が対象です。
では、無借金経営が良いかと言うと、真の意味での「自社主導の経営」を実現するのであれば、金融機関(特にメインバンク)との関係は重視する必要があります。取引規模の拡大や設備投資をしたいとき、現在のような不測の事態に「自社主導」を維持するための大事な資金の融通先だからです。総じて「自社主導の経営」を実現するためには、会社の業績が良いことが前提になります。赤字体質から脱却できない状況では受注先、仕入先、金融機関等すべての取引先から支配されてしまい、経営は常に息苦しい状態です。
財務体質が問題ない場合であっても各方面に積極的に働きかけなければ自社主導にはなりません。VUCA時代に対応し、持続可能な経営体質を築き上げるためにも、自社でコントロール権が持てるよう意識して行動することに注力して下さい。
<複製・転写等禁止>