№117-R3.3月号 危機時の資金繰り
不況に対する心構え
東日本大震災から10年、新型コロナウイルス感染拡大から約1年が経過しました。2008年9月にはリーマンショックによる不況を経験し、この15年程で100年に1度レベルのものも含め大きな不況の波が不連続に押し寄せた印象です。
不動産、建設、運輸業を直撃したいわゆる「金融不況」のリーマンショックに対し、飲食、ホテル・旅館、アパレルに大打撃を与え「消費不況」を長期化させている今回の新型コロナウイルス、形態は異なれど世界に深刻な不況をもたらしました。
不況になると会社として最も苦慮するのが「資金繰り」です。
①売上減少→②利益減少→資金減少という流れで、正常運転資金に支障が生じ、借入金で急場をしのいでも、今度はその返済資金が上乗せになって資金負担が増えるという悪循環を作ってしまいます。普段から「手許流動性」を厚くしておくことや事業を複数展開するなどの備えも必要ですが、期間が長引くと事前の対策も非常に難しいです。
政府は「事業再構築補助金」に手厚く予算を盛り込んでいますが、このような状況で先を見据えた堅実な事業再構築が可能かというとやや筋違いな感じがします。ただ、会社の存続という意味では、不況は必ず来るという認識と変化へ対応するという意識は持っていなければなりません。
融資条件を有利にする
平常時に金融機関から融資を受ける場合はある程度先を見通した事業計画のもと返済プランを立てることが可能ですが、危機時には資金を回すことを優先しますので目先のことに集中してしまいがちです。特に、今回の「コロナ対策特別融資」のような制度融資は特典が多く、慎重に契約する必要があります。
例えば、①返済期間は可能な限り長くする ②元金据え置き期間は長く利用する ③限度枠まで借りる です。返済期間を長く設定することで毎月の資金負担は軽減されますし、状況が深刻であれば据置期間を長く利用することで当面の返済負担は無くなります。
据置期間を5年に設定した場合、返済期間が10年ですと5年後に5年間で返済することになることや据置期間にも利息がかかるという条件ではありますが、低金利で5年後は不況を脱するという前提で現状をしのぐことが最優先です。
また、今回限度枠が4,000万円から6,000万円に引き上げられました。手許流動性を高める(手元資金を増やす)ためにも増額枠は積極的に利用し、ある程度資金に余裕がある場合は借り換え資金として、この機会に融資総額で条件の良いものに変更する資金とするのも一案です。ただ借りるのではなく、特典は積極的に利用することで今後の資金繰りは大きく変わります。
支払いの優先順位
資金繰りが本当に行き詰ってしまった場合、支払いの順序はどのようにすべきでしょうか?
優先順位を付けた場合、最も高いのはやはり人件費です。資金繰りが悪化しても社員への給料支給は最優先で、国もこの部分には「雇用調整助成金」でしっかり補填しています。
次に仕入や外注費などの買掛金です。この支払いが滞ってしまうと商品が入荷しなくなりますので、商売自体が困難になってしまいます。
3番目は家賃です。店舗を賃借している場合に限られますが、退去を迫られてしまっては商売になりません。予め保証金(敷金)との相殺交渉をしてみるのも一手段です。昨年は「家賃支援給付金」も支給されました。
4番目が税金、社会保険料でしょうか。中でも国税(消費税や源泉所得税)が優先で、社会保険料、地方税の順になります。お客様や従業員からの預り金的な性格の税金は徴収も厳しい印象です。こちらも現在は納付を猶予する特別措置が設けられています。
最後は借入金の返済ですが、決して優先度が低いというわけではなく正式にリスケジュールを申請し、支払いを猶予してもらう手続きをするという意味です。
以上、先行き不透明な状況が続く中、「資金繰り」によっては会社の明暗が分かれる事態に直結します。基本ルールを知ることで最悪の事態を回避できる可能性は高まるはずです。
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