№119-R3.5月号 経営理念の役割

経営理念とは

「経営理念」については多くの小規模企業で中々浸透にまで至っていないのが現状です。作成さえしていないという企業も少なくありません。「理念」という言葉を改めて調べてみると、「根底にある基本的な考え方」(『広辞苑』)とあり、正確な意味を知ることで納得感も得られ、漠然と必要性は感じられると思います。

経営理念」は、その企業の存在意義や目的を簡潔かつ普遍的な形で文書化した基本的価値観の表明です具体的には「わが社はどんな商品やサービスを通じて社会に貢献するか」や「わが社は何のために存在するか」を社内外に示す宣言文のような文書になります。経営概念としては、その企業の最上位に位置し、一般的に目的である「経営理念」があった上で目標となる「経営ビジョン」を明確に示し、基本戦略(ドメイン)を決めて機能別戦略・戦術に落とし込んで行動として具体化する展開でしょうか。

以前ご紹介した『ビジョナリーカンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ著)では、登場する偉大な18社すべての会社に共通して「自社の基本理念という一貫性を維持しながら、しかし同時に常に変化し続けて進歩し続けるという、ある意味では矛盾する二面性を備えている」とも記されています。

100年以上続く企業は名称こそ「社訓」「社是」「綱領」「経営指針」「信条」などと掲げていますが、内容は「経営理念」そのものであり、企業の長期的な発展には「経営理念」が不可欠であることを裏付けています。

作成手順と浸透しない理由

松下幸之助氏も自著『実践経営哲学』の中で「経営の健全な発展を生むためには、まずこの「経営理念」を持つということから始めなければならない。そういうことを私は60年の体験を通じて、身をもって実感してきているのである」と述べている通り、本来「経営理念」は創業当初に策定すべきです

まず、「独自の社会貢献(存在意義)」を念頭に社長の想いや考え方を明文化(見える化)します。次に、その「経営理念」を全社員に浸透させなければなりません。浸透したら最後は全社員が実践することです。社長が掲げているにもかかわらず、浸透していないのであれば社員に受け入れられない何らかの問題あるということになります

キーワードとして、「顧客満足」「社員満足」「社会貢献」等が含まれていれば、「経営理念」自体に腹落ちしない理由は少ないはずですが、きれい事だけを並べていたり、偉大な人の言葉をそのまま引用したり、先代以前に作られて時代にマッチしていない場合などは浸透しにくいかもしれません。策定した社長自身が「経営理念」に逸脱した行動をしている場合もあり、整合性をきちんと維持する意味で、例え社長であっても「経営理念」に反した際には罰則があるくらいの全社的なコミットメントが欲しいものです。

経営理念がもたらす効果

「経営理念」の浸透によってもたらされる経営上のメリットは非常に大きいと考えます。最も典型的な効果としては、やはり「求心力」ではないでしょうか全社が同じ方向に向くことで価値観が融合して目標への達成意欲も自ずと湧くでしょうし、予期せぬ事故に対してもレジリエンス(回復力)が強く働きます一方で求心力」が「経営理念」のような「考え方」ではなく、「お金」であったとしたら、「金の切れ目が縁の切れ目」で、昇給がなければ社員は良い仕事をしようとは考えず長続きしない企業体力の弱い組織になることでしょう良い仕事で社会から評価されれば、仕事に誇りや自信を持つことができ、さらに信用や信頼が得られ、その結果として、求人や業績、資金力にまで影響することになります。コロナ禍においては「経営理念」の存在を見直す絶好のタイミングです。今後は大きな環境の変化が予想され、社員はもちろんお客様や取引先、金融機関、地域住民に賛同が得られるような「経営理念」の在り方が問われています。これを機に貴社の「存在意義」について今一度目を向けてみて下さい。

 

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