№122-R3.8月号 税金にまつわる都市伝説
個人住民税は都会が安い
巷には一聞するともっともらしいフェイク・ニュースが出回っています。それも全国津々浦々で同じような話が拡散するのがとても不思議です。今回はこれまでに聞いた、本当のような税金に関する都市伝説をご紹介します。
最初は個人住民税で、「〇〇市に引っ越したら住民税が上がった」、「〇〇市はグローバル企業の△△があるから住民税が安い」というような会話です。会社員の経験があれば一度は似たような例を聞いたことがあるのではないでしょうか?
結論から言いますと、原則的に個人住民税に地域差はありません。正確には「実感するほどの金額差はない」ということになります。実際には所得に対して一律10%(市民税8%、県民税2%)の所得割と、均等割という定額の税金(年額で道府県民税1,500円、市町村民税3,500円。本来はそれぞれ1,000円、3,000円、東日本大震災の復興や防災費用の財源確保として14~23年度はそれぞれ500円を増額している)が課せられ、この金額がわずかに違う自治体がある程度です。
中には例外的に、名古屋市のように2012年度から所得割を0.3%、均等割を年200円引き下げているようなケースもありますが、それでも「安い」と感じるまでのレベルではないような気がします。所得割の標準税率10%は国が定めていますが、自治体による条例での変更は可能なようです。
毎年同額を贈与するとまとめて課税される
「毎年同じ額を贈与すると、税務署は定期贈与だといって、数年分の贈与を最初の年にまとめて課税するから、毎年金額を変えて贈与した方がいいよ」といったいわゆる「連年贈与」の話も正確性を欠いた情報が多い印象です。
確かに、毎年同月日に定額の贈与をしていれば連年贈与の認定を受ける可能性は高いでしょう。仮に「1千万円を贈与する。ただし、毎年100万円ずつ10年間に分けて支払う」という「贈与契約書」の作成があれば、課税時期は書面による贈与の場合契約成立の時ですので、この話は正しいということになります。
しかし、実際にわざわざ不利な「贈与契約書」を作成することがあるのでしょうか? さらに、「毎年基礎控除(110万円)の範囲内で贈与をするより、申告して少しだけ税金を払っておけば、税務署に後で指摘されるようなことはないから」というような例もあります。
どこからそのような根拠が生じるのか疑問ですが、素人が勘違いしても不思議ではないレベルです。もし、110万円以内で贈与税を支払わずに毎年贈与するのであれば、その都度「贈与契約書」を作成しておけば、問題なく贈与することができます。ここでのポイントは「親族間取引であるからこそ「贈与契約書」の作成は必要」という部分です。
事業所得が〇万円以上なら法人が得
個人事業主様からのご相談で「どのタイミングで法人にすれば税金を安くできますか?」というご質問をいただくことがありますが、その際の正しい応答は、「一度試算させて下さい」となります。
よく聞くのが、「事業所得が600万円もあるなら、早く法人にしないと損ですよ」というようなパターンですが、税理士も銀行も保険会社も、相手が法人の方が取引上何かと有利になることが多いからでしょう。実際に、税理士は法人成りしてからどちらが得であったかを検証することはまずありません。
この場合は事業所得が600万円ですので、試算では法人との比較で役員給与を600万円(月額50万円)に設定して計算するのが一般的です。その際、法人税等と所得税、住民税、個人事業税との比較まではするのですが、肝心な社会保険料負担を考慮していないケースが多く見受けられます(社会保険料≠税金という判断でしょうか…)。現在では、法人、個人ともに社会保険料負担は増えており、実際にはこの部分が法人設立後においてもネックになってくるのです。
具体的な数値での説明は省略しますが、税金や社会保険料に限らず、設立費用や税理士報酬、銀行取引、企業防衛保険等の諸契約についても、支出ベースでのメリット・デメリトを踏まえて包括的に検討する必要があります。
税のことについて伝え聞いた興味深い話や気になる節税策等がある場合には、是非信頼できる税理士にご相談下さい。
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