№156-R6.6月号 同族会社の親族内承継

親族内承継の現状

今月1日発売の『KINZAI Financial Plan 6月号』(巻頭特集)で親族内承継について執筆しましたので、今回は同族会社の事業承継の現状や注意点を取り上げることにします

一般的に専門家を含め同族企業では親族内承継、後継者不在という印象が定着していますが、最近ではその傾向に少し変化が出始めているようです

帝国データバンクの調査によると、「後継者不在率推移(全国・全業種)」は2017年の66.5%をピークに年々減少しており、直近の2023年には53.9%まで低下しています。

また、同調査の「就任経緯別推移」では、2023年に内部昇格が35.5%まで上昇し、同族承継の33.1%を超える結果となりました。M&A他も20.3%にまで達しており、現状では「同族会社は親族内承継へのこだわりが強く、後継者不足が年々深刻になっている」という事業承継の定説が崩れつつあります

その背景には、同族会社での所有と経営の分離やM&A仲介会社とメインバンク、顧問税理士等のタイアップにより会社売却などの選択肢が容易になったことがあるでしょう。後継者の不在を理由に、財務状態が良好なうちに解散・廃業を決断する経営者も増えているようです。
また、女性経営者の割合が未だ少ない(2023年10月時点で8.3%:帝国データバンク)ことも親族内承継減少の一因かもしれません。

承継時の問題点

事業承継は大きく「資産承継」と「経営承継」に区分され、同族会社ではその両方が次世代に承継されるのが一般的です

「資産承継」とは、文字どおり会社の資産を承継することで、親族内承継の場合、現経営者の親族が自社株をどのように引き継ぐかが問題となります。

一方、「経営承継」とは、「会社経営をだれに任せるか」ということを指し、会社の存続や発展を担う人物として適任かが重要な論点となります。

「資産承継」を自社株の親族後継者への異動とした場合、最大の問題は株価の高騰で、長期間好調な業績を維持している会社ほど株価は上がり続ける傾向にあるからです。現経営者としては積極的な株価引下げは避けたいですし、後継者側も対外的に価値のない株式を高い対価や贈与税を支払ってまで取得したいとは思わないでしょう。

また、後継者候補以外に子がいる場合は、婚姻後にそれぞれの配偶者から資産配分について意見されることで承継に影響を受けることも少なからずある印象です

経営承継」面では、後継者と古参従業員との確執が最も多いと感じています。先代経営者に長年仕えてきた従業員にとって、後継者の地位や態度、斬新な経営方針は受け入れられず、最悪は離職や訴訟にまで発展してしまう次第です後継者は代表就任と同時にリーダーシップだけでなく多角的に経営能力を試されます。

円滑な承継のポイント

親族内承継においては、権限を一人に集中させることが原則であることはいうまでもありません。所有と経営を一致させることこそが経営安定化の確度を高めることになるからです。

「資産承継」では後継者に自社株をすべて異動させることになりますが、この部分では令和9年12月末までの期間限定で「事業承継税制」が設けられています一定の条件を満たせば、贈与または相続により後継者が取得した自社株については納税が猶予される制度です。相続人が多く、株式の分散を防ぐ目的では、先代経営者が公正証書遺言を作成しておくことや相続時精算課税を利用して贈与する方法などもあります。

一方、「経営承継」では、古参の従業員との確執が懸念されるのであれば、後継者を最初から代表にせず、一旦、先代の片腕を担ってきた従業員を代表に据え、その後に親族に戻すことも広義の親族内承継となるでしょう。同族会社にとって、親族内承継はこれまで企業存続の前提でしたが、近年少子化や企業業績の悪化で承継方法も多様化しています。

大切なことは会社が成長・発展するためにどう繋ぐかであり現経営者は事業面だけでなく財務面でも後継者に魅力ある状態にしておくこと、早い段階から承継計画を立てておくこと、現場の理解が得られる状況を作っておくことです

 

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