№71-H29.5月号 税収の現状と税収構造の変化
税収は右肩上がり?
国の税収が順調に推移しています。2016年度の一般会計税収は企業業績の下振れで1.7兆円下方修正され、55.9兆円に落ち着きそうですが、2017年度は57.7兆円と再び増加が見込まれています。過去最高であった1990年度が60.1兆円でしたので、これに迫る勢いですが、果たしてこのまま伸び続けるのでしょうか?
周知の通り2012年12月の第2次安倍政権発足後、財政・金融政策で円安・株高が進んだことに因るところが大きく、当時に比べ約14兆円の税収増となっています。それでも先日可決成立した2017年度の一般会計予算が97.4兆円ですので、約40兆円が歳入不足であるということも事実です。内閣府は実質経済成長率(実質GDPの対前年上昇率)が2%ベースで伸び続け、2025年度に税収が81兆円に達するシナリオを打ち出していますが、ここ数年は1.2~1.3%で推移しており、実現はかなり困難であることが予想されます。
また、経済成長と税収は基本的に連動していますが、例えば、先送りになっている消費増税が予定通り実施されれば、一気に景気が冷え込んで税収減となってしまうという逆効果(消費増税で税収増のはずが、景気が悪化し、法人、所得税等が税収減となる)の可能性も考えられます。「暫く税収は右肩上がり?」そう簡単にはいかないようです。
税収増を阻む壁
今後の持続的な税収増を実現するうえで、いくつか不安要素や限界論も表面化してきています。まず、中小企業にも馴染み深い「繰越欠損金」が2015年度に7年ぶりに増加に転じたことです。リーマン・ショック後の2008年度の約90兆円をピークに順調に減少していましたが、2015年度は約65兆円と前年度対比で微増しています。法改正により先月、繰越期間が9年から10年に延長されたことも、再び増加基調に転じるのではないかという懸念を高めています。
これは、依然として税収の7割以上は上場企業からもたらされており、まだまだ小規模企業の経営は決して回復していないという現状の表れでもあります。とはいえ、リーマン・ショック前の水準は下回っていますので、悲観するレベルということではありません。
次に、世界的な減税ムードが今後の税収増に歯止めをかけることが考えられます。日本の法人実効税率もようやく世界水準並みの30.86%にまで下がりましたが、ここへ来て、米国のトランプ大統領も公約の法人税・所得税の大幅減税に着手しようとしています。世界規模で大企業誘致による生産や雇用の拡大を推し進めるには、法人減税は不可欠です。日本も国家戦略特区の拡大等の対抗策を打ち出していますが、世界的な減税競争の壁は「持続的な税収増」のシナリオに大きく立ちはだかることになるでしょう。
税収構造の変化
また、税収の構造が20年前と大きく変化していることも、「持続的な税収増」を不安視する要因としてあげられます。
主要税目(所得税、法人税、消費税)を比較すると、一般会計税収に対する割合が2015年度で所得税18.0%、法人税12.2%、消費税17.2%という構成になっています。1995年度が所得税19.5%、法人税13.7%、消費税5.8%ですので、消費税に依るところがかなり大きくなっていることが見て取れ、言い換えれば、景気がよくなった場合の伸びしろが20年前より小さくなっているということになります。
その根拠として、財務省が「税収弾力値」(経済成長による税収増の効果)を発表していますが、現状1.1程度で、今後さらに下がるとの予測です。歳入は税収で賄えることが原則ですが、不足分は国債の発行で補うことになり、将来の世代へ負担を繰り越すことになります。最近では教育無償化の財源として「教育国債」の議論が進められていますが、単なる特例国債(赤字国債)の付け替えにならないことを願うばかりです。税収が増え続けても、予算も増え続ける…。 企業同様、収入を増やすことだけでなく、無駄な費用を削減する議論も十分にしてもらいたいものです。
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