№56-H28.2月号 マイナス金利の影響
「マイナス金利」とは
先月29日、日銀の政策決定会合で金融政策としては未踏の領域である「マイナス金利」の導入が決定しました。政策委員9人中、4人が反対という僅差の決定ということもあり、当初より金融業界、経済界に波紋が広がっています。
日銀は2013年4月に黒田東彦氏が総裁に就任後、2%の「物価安定目標」を掲げ、巨額の国債を買い入れるなど「量的・質的金融緩和」を強く推し進めてきましたが、世界規模の原油価格の下落等の影響もあり、その効果が思うように上がらず、「金融バズーカ第3弾」が近いのではないかとのうわさも以前からささやかれていました。
今回の「マイナス金利」とは、民間の金融機関が日銀に預けている当座預金の一部(法定準備金を超える部分)に従来0.1%付されていた金利が、逆に「-0.1%の金利を付ける」、つまり、当座預金の一部に対して0.1%の手数料を徴収するという類稀なる政策です。狙い通りであれば、民間金融機関が日銀当座預金に預け入れている資金が民間企業への融資に積極的に流れる効果が期待できます。
「風が吹けば桶屋が儲かる」に例えれば、
①民間金融機関が融資を増やす
②民間企業が設備投資して、生産性が上がり利益が増える
③利益が増えたことで給料が上がる
④給料が増えることで消費が増え、景気が上向く
⑤景気が上向けば、物価の上昇が期待できる
といったシナリオです。
③で、企業業績が上がれば株価が上がるという効果も期待できそうです。
実際の反応は
この決定がなされると、マーケットは一時円安・株高に振れましたが、現在ではその意図とは裏腹に以前の水準を割り込んで円高・株安が進んでいます。金融機関の反応は早く、ソニー銀行では普通預金金利を0.02%から0.001%へ、ゆうちょ銀行が0.03%から0.02%へ引き下げ、安全資産で運用され比較的利回りの高い投資信託であるMMFの運用を終了する証券会社も出始めています。
中部地方の地銀においても、定期預金金利を中心に軒並み金利引き下げを実行していますが、予想される各種取扱手数料の引き上げについては、現段階では改定に至っていません。
一方で、マイナス金利を回避する投資家(金融機関を含む)が資金を日本国国債に振り向けたせいか、長期金利の指標とされている単発10年国債の利回りが一時マイナスを付けるという前代未聞の事態も発生しました。国債金利が下がれば、政府の歳出負担も減り、これと連動している住宅金利の更なる引き下げなどが期待できますが、逆に年金資産の運用などには歯止めがかかり、将来の年金受給額や年金負担に大きく影響してしまうといった懸念も生じてしまいます。
このように関連業界を中心に比較的早い反応が現われていますが、しばらくは経過観察をしつつ、金融資産をどのように分散するか、融資をいかに有利に引き出すかなど、自社の置かれた状況に鑑み、慎重に見極めた上で、何らかの対応をしていく必要がありそうです。
日銀は追加策を誤ったのか?
すでに「日銀の追加策不発」という見出しを1面に掲載している新聞社も出ているほどですが、個人的にはそのように結論付けてしまうのはやや時期尚早のような感じがします。
そもそも、景気浮揚は日銀の金融政策のみで実現できるものではなく、政府の有効な財政出動や成長戦略と相まって徐々に効果を発揮するものです。それに加えて、近年では世界景気も大きく影響してきますので、半月も経過しない短期間で決定づけられるようなものでもないでしょう。
しかし、日銀は同時に、年間80兆円に及ぶ異次元緩和(量的緩和)も継続していますので、現在約254兆円ある日銀当座預金残高の増減がどう変化するか、中国景気や日米金利差の動向がどのように影響するかが今回の政策の是非を判断するうえでポイントになることは確かなようです。今後の行方が大いに注目されます。
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