№80-H30.2月号 「働き方改革」を考える

改革の背景と趣旨

働き方改革」は、「一億総活躍社会に向けた最大のチャレンジ」と謳われるほど、現政権において最重要課題の一つに位置付けられています。そして、その背景には、「我が国の少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働き手のニーズの多様化」など差し迫った現状があります

政府も平成28年9月より、安倍首相を議長とした「働き方改革実現会議」を10回にわたって開催し、専門家や現場との積極的な意見交換をするほどの力の入れようです。

具体的には、「非正規雇用の処遇改善」や「賃金引上げと労働生産性向上」、「長時間労働の是正」など9つの分野について議論がなされ、その成果として、実現に向けたロードマップが示されました。「働き方改革」では、「働く人の視点で、一人ひとりが、より良い将来の展望を持ちうるように」という基本的な考え方が強調されています

とは言え、趣旨は理に適っているものの、いざ実践となると、利益を増やしつつ、労働時間を減らすという課題は、トレードオフともとれるとても高いハードルです。今回はこの「働き方改革」の2つの柱について取り上げてみます。

生産性が低い日本

生産性の向上」は「働き方改革」の大きなテーマの一つですが、日本は以前から先進国の中でも最も生産性が低い国といわれています。その根拠となっているデータが、毎年、公益財団法人日本生産性本部が公表している『労働生産性の国際比較』です。

直近の2017年版では、日本における就業者1人当たりの労働生産性は834万円、就業1時間当たりの労働生産性は4,694円という内容で、1人当たりではOECD加盟35カ国中21位、1時間当たりでは20位、主要先進7カ国では1970年以降、ずっと最下位の状態が続いています

このデータを少し加工し、1人当たりの労働時間を算出すると、834万円を4,694円で割って約1,777時間となります。しかし、正社員であれば、1日8時間で年間245日勤務したとして1,960時間(年間休日120日)、残業時間が月10時間としても年間2,080時間程度が標準的な労働時間です1人当たりの労働生産性834万円を、この現実的な労働時間2,080時間で割れば、1時間当たりの労働生産性は約4,010円となり、実際の付加価値はさらに低くなります

参考までに、米国の1人当たりの労働生産性は約1,254万円で、2010年代になってから日本は3分の2程度の水準で推移しています。世界的な観点からも、日本が人口減少国である以上、早い段階での労使双方の意識改革の必要性は感じますが、値上げや解雇といった単純な解決策に頼らないよう知恵を絞りたいものです。

同一労働・同一賃金

「働き方改革」のもう一つの骨子として「非正規雇用の処遇改善」があります。最近では、「同一労働・同一賃金」という言葉で、目にする機会が増えてきました。つまり、正社員でもパートでも同じ仕事をしているなら、同じ賃金を払うべきという考え方です。以前は男女の賃金格差が問題になっていましたが、この背景にも主に女性の社会進出をサポートする狙いがあります。

2016年時点で、日本の非正規労働者数は2000万人を超え、労働者全体の37.5%を占めるに至っています。日本特有の終身雇用、年功序列といった制度の下では馴染みにくい考え方かもしれませんが、ベテランであれ、新人であれ同等の仕事内容であれば、賃金も同等で然るべきです。政府は、企業の準備期間等に配慮して、この適用時期を大企業は2020年度、中小企業は2021年度に1年延期をしました

とは言え、現場では、役職による権限の違いや正社員は転勤の可能性がある等の待遇の違いを理由に、「同一労働」の定義を曖昧にして回避する傾向が表れています。長い期間をかけて構築してきた体制をこの短い期間で改革することは決して容易ではないと思いますが、企業の永続を考えるのであれば、可能な限り早い段階での着手を検討することが得策です。抜け道策が拡大し、改革が骨抜きにならないことを願います。

 

<複製・転写等禁止>