№81-H30.3月号 ビジネスに役立つ心理学

エビングハウスの忘却曲線

ビジネスにおいて、人の行動パターンや心理に働きかけることはとても重要な要素です。今回は、そのためのノウハウをいくつかご紹介させていただくことにします。

エビングハウスの忘却曲線」という言葉を耳にされたことはありますでしょうか? ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが発表した、記憶から忘却までの経過を記したグラフのこと なのですが、この実験で人は、20分後に42%、1時間後に56%、1日後に 74%、1週間後に77%、1カ月後には79%忘れるという結果が得られました

つまり、人は自分で感じている以上に忘れてしまうということです。とすると、まず、商品やサービスの内容をお客様に忘れられないための工夫が必要ということになります。

例えば、定期的に告知を繰り返すこと、継続的に訪問することなどが効果的な手段となるでしょう。会社やスタッフは何よりもお客様に名前を忘れられないこと、それが目標とする売上を継続的に達成するための第一歩となります。

ザイアンスの法則、カリギュラ効果

さらに、名前を好意的に覚えてもらうためには「ザイアンスの法則」という理論があります。

アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した「単純接触効果」と呼ばれる法則で、「人は知らない人に対しては攻撃的で冷淡な対応をするが、会う回数が増えるほど自然と好感度も高まる」というものです。

接触回数が増えれば、相手の警戒心も次第に薄れるのは当然といえば当然ですが、やはり、継続して会う機会を意識的に作ることが重要になります。ただし、その際の身だしなみや言葉遣い、聴く態度などが好ましいことが前提です。

次に「カリギュラ効果」ですが、「禁止されていることほどやってみたくなる」という心理現象で、「決して心臓の悪い人は見ないで下さい」という映画のキャッチコピーや「誰にも言わないで下さい」と言われると言いたくなる心理、「痩せたくない人は、絶対に買わないで下さい」などのフレーズがこれに該当します。

これら2つはそれぞれ何の関連性もなく、対照的な手法ですが、どちらも「人の心理に触れる」という点では効果があり、ビジネスへの応用が可能です。

チャルディーニの法則

また、アメリカの社会心理学者ロバート・B・チャルディーニは、有名な著書『影響力の武器』の中で、人の行動に影響を及ぼす6つ要因をあげています

1つ目は「返報性」で、「受けた恩義は、返し たくなる」という人間の心理に基づいたもの。

2つ目は「希少性」で、「限られたものほど、欲しくなる」という欲求に根差した心理。

3 つ目は「権威」で、「肩書きや経験などを持つ者に対して、人は信頼を置く」という権威への憧れや刺激を求める心理。

4つ目は、「コミットメントと一貫性」で、人は誰しも「表明した約束を守ろうとする気持ち」を持っていること。

5つ目は、「好意」、「好きな人に同意したくなる気持ち」で、「自分に似ている」、「自分を褒めてくれる」、「同じゴールを目指す仲間である」の3つを人が好意を抱く理由としています。

最後6つ目は、「社会的証明」で、「周囲の動きに同調したくなる気持ち」も人の心を大きく左右する要因です。例えば、ユーザーの体験談紹介や、「売上№1」を宣伝する手法がこれにあたります。

チャルディーニは、この6つの心理的アプローチを駆使して、人の行動に影響を及ぼすことができれば、マーケティングにおいては大いに有効であると述べています。この『影響力の武器』は名著ですので、経営者の皆様には是非ご一読をお勧めします。

最後に、事業の発展を実現させるためには、人が主役である限り、心理学を学ぶことが欠かせません。お客様に忘れられず、好感を持たれることが、商品やサービスの継続的な購入・利用につながります。これから先も、人の心理をよく理解し、行動できるかどうかがビジネス成功の鍵を握ることは確かです。

 

<複製・転写等禁止>