№82-H30.4月号 融資スタンスが変わる?
「金融検査マニュアル」廃止へ
金融機関の融資スタンスが変わろうとしています。「事業性評価」のことについては以前触れたことがありますが、これに向けて様々な制度が動き出し、いよいよ中小企業にも浸透してきそうな流れです。新聞等でも昨年末に公表されましたが、金融庁が2018年度末にも「金融検査マニュアル」を廃止する意向を明らかにしました。
「金融検査マニュアル」とは、文字通り、金融庁が金融機関の資産の状況や業務の体制等をチェックする指針のようなもので、バブル崩壊後に多額の不良債権を処理することを目的に導入されました。そして、金融機関が正常な運営を維持できるよう、貸付先が破綻した場合に備えて、そのリスクに相当する分を引当金として留保しておくよう促すことなどが主な内容となっています。
しかし、近年、マニュアルによる金融庁の厳格な管理のもと、金融機関の健全化に一定の成果が見られ、バブル崩壊後に抱えた不良債権が終息したことやマイナス金利、人口減少の影響で地方銀行などの収益低下が進んでいることなどもあり、今回その役割を終えるという結論に至ったようです。
金融機関に対する検査・監督の基本方針
マニュアル廃止に伴って発表されたのが「金融機関に対する検査・監督の基本方針」です。基本方針では、金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築や顧客の特性に応じた柔軟な融資対応を促す方向性を打ち出しています。
記憶に新しいところで、「金融検査マニュアル」においては「債務者区分」という企業格付けのようなものがあり、一定の評価基準により「正常先」から「実質破綻先」まで5段階に区分され、融資の際の判断材料とされてきました。
平成29年10月に金融庁が中小・小規模企業を中心とした約3万社に実施したアンケートでは、「正常先」が17.9%とやや数字を上げていますが、注目すべきは「担保や保証がないと融資に応じてくれないと感じますか?」という質問に対して、正常先上位で23%、正常先下位で39%が「はい」と回答している事実です。
今回の狙いは、「マニュアル重視、担保・保証頼りの体質から、各金融機関の経営判断を尊重した創意工夫を競い合う環境作りへのシフト」と一応は評価できる趣旨のものですが、一方で、急速なAI、IoT化による人員削減の流れも進行しています。融資を受ける側としては、好業績の維持が必達条件であることに変わりはなく、緩和への期待感よりも、むしろ、更なる経営努力を迫られる変更といえるかもしれません。
信用保証協会融資(マル保融資)の厳格化
「事業性評価」を後押しする極めつけが、今月から厳格化された信用保証協会融資(マル保融資)です。金融庁の「信用保証協会向けの監督指針」が改正され、「企業の成長性」、「信用保証の必要理由」を考慮する内容となりました。成長性が問われるということは、「将来的な売上拡大」や「企業の存続性」を具体的に示す必要があります。
M・ポーターの5フォース分析などは必須で、存続性についても事業承継計画や財務の安全性を確保しなければなりません。現状、金融機関もマル保融資に依存している傾向があり、正常先であっても真っ先に勧める現場を何度も目にしています。しかし、これにより、ある程度無条件で受けられていた融資に確実に歯止めがかかりそうです。
一部の例外を除き、1,000万円の融資では、その80%の800万円を信用保証協会が保証していましたが、今後予想される銀行への対応としては、正常先であれば「プロパーでお願いします」とか、要注意先以下であれば「一定のリスクを取って下さい」というような具合になることでしょう。
企業努力により、事業性評価の基準を満たすのであれば、「保証や担保に頼らない融資」が前提になるはずです。制度による外圧が必要以上に担保や個人保証への依存を強めたり、「貸し渋り」や「貸し剥がし」を再燃させることがないよう、金融機関にも一層の創意工夫と柔軟な対応を期待します。
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