№84-H30.6月号 無料の価値

無料好きの日本人

「Y○○○○、タダ、タダ、タダ、タダ」というテンポの良いテレビCMが頻繁に放送されているのを見て、以前から、日本人は「無料」とか「タダ」という言葉に特に影響されやすい国民性だということを感じています。GDP世界第3位の豊かな国の人々が、この単語に敏感に反応するのは、とても不思議な現象です。

「今だけ無料」、「送料無料」、「タダ学割」、「無料査定」、「相談無料」などのフレーズを、毎日どこかで見たり、聞いたりしていますので、売り手側には、さぞかし有効な販売戦略になっているかと思いきや、現在では、ネットの普及による情報の氾濫と「デジタル化」という技術革新が、「無料」を身近なものにしてしまい、逆に商売は益々複雑化し、大きな変化を求められている状況です

スマホのアプリ、データのダウンロード、クレジットカードの年会費、子どもの医療費など、少し思い浮かべるだけでも、意外に多くの「無料の恩恵」に気付きます。個人的には「タダより怖いものはない」というスタンスですので、「無料」の背後にある売り手の野心をつい考えてしまい、思考を遮断してしまいがちですが、世間一般では必ずしもそうではないようです。

先日、「住所と名前を書いてもらえば、空くじなしの抽選ができます!」という呼び込みに、年配の方々の行列ができていました…。

「フリーミアム」とは

少し経営学の観点からお話をしますと、伝統的な手法では、スーパーマーケットなどで取り入れられているISM(インストアマーシャンダイジング)のISP(インストアプロモーションが思い当たります。

例えば、ノベルティやサンプリング、デモンストレーション販売などは、非価格主導で条件購買や衝動購買を促し、無料(オマケなど)の効果を使って客単価の増加を達成しようとするものです

また、クリス・アンダーソン氏の著書『Free』に記されているフリーミアム戦略も浸透してきています。

フリーミアムとは、商品・サービスを無料で提供して、その中で一部の人が有料サービスを利用することで利益を上げるフリー戦略モデルです。例を挙げると、食べログ、クックパッド、Dropboxなどはフリーミアムの成功例と言われています。会計ソフトのfreeeも業界に衝撃を与えました。

他にも、紳士服を1着買うと、2着目は無料というマーケティング手法はバイワンゲットワンフリー(Buy one Get one Free)と呼ばれます。

フリー戦略は、価値のあるモノや情報を無料で提供することで、信頼を高め、「返報性の原理」が働き、「ザイアンス効果」を得られる可能性もあるため、人の心理面とも密接に関わっています「入口は無料、そのうちだれかが有料」がFreemiumの手法です。

統計には反映されない

このように、無料のビジネスモデルがマーケットでシェアを拡大していますが、GDPには、この「無料の価値」が反映されず、その額はGDPの3%にのぼるという試算があるようです

例えば、CDを購入すれば3,000円のところ、スマホにダウンロードすれば2,000円で同じ楽曲を聞くことができれば、この差額の1,000円が「消費者余剰」となるのですが、統計上では、現状この「消費者余剰」が含まれていません

この「無料の価値」が増えるほど、社会全体の付加価値と統計上のGDP値が乖離してしまい、精度への信頼感が薄れます。今後は、時代に則した統計の在り方も課題になりそうです。

また、「無料の価値」の影響力が大きくなれば、「有料の価値」はさらに高いものでなければなりません。デジタル化による無料化が進めば、アナログ化による手作り感や希少性が「有料の価値」を高めることもあり得るでしょう。

「無料」を絡めた戦略は、さらに増えることが予想されます。売り手であれば、無料から有料へのインセンティブを、買い手であれば商品やサービスへの目利き力を養うことが要求されます

 

<複製・転写等禁止>