№85-H30.7月号 決算書に載らない重要な事実
合法ではあるが実態にあらず?
決算書は自社を客観的に把握するためのとても重要な書類ですが、上場企業を除いて、どの程度の会社が真に信頼のおける内容のものを作成しているのでしょうか? もちろん、粉飾や偽装はない前提です。問い方を変えて、「もし、あなたがある業績好調な会社を買収しようとしたら、買収先の決算書を鵜呑みにできますか?」としたらどうでしょう。
そもそも、決算書(正確には「計算書類」といいます)とは、会社法で作成を義務づけられており、主に株主への業績報告や与信管理、税金の申告等に利用される報告書のことです。中小企業では多くの場合、第三者である税理士が作成に関与していますので、概ね疑う余地はありません。
しかし、他社の決算書を見ることがあるとしたら、きっと多くの疑問や不可解な事実に気が付くことでしょう。合法的に作成された決算書が、必ずしも会社の実態を正確に表しているとは限らないということを、これからいくつかの例を挙げてご紹介したいと思います。
時価と簿外資産
まず、馴染み深いところで、「資産の部」の土地や投資有価証券の金額はいかがでしょうか? これらは、原則、取得した時の価額がそのまま計上されていますので、場合によっては「時価」と大きくかけ離れている可能性があります。
バブル期に購入した土地であれば、大きく値下がりしていたり、数年前に購入した上場株式であれば、大きく値上がりしているかもしれません。また、同じ「資産の部」で、本来は計上されるべきものが、いわゆるオフバランスの状態になっているパターンもあります。
身近なところで、倒産防止共済(セーフティ共済)の掛金がわかりやすい例でしょう。実態は積立の性格が強い支出なのですが、損金計上が認められているため、保険料で処理されているケースが散見されます。
この問題は、どちらの処理も全額損金扱いで納税額は同じになりますが、保険料で処理してしまうことで、実際に積み立ててある資産が決算書に表れないことと、安全性の目安でもある「自己資本比率」等の指標を過少にしてしまうことです。掛金の上限が800万円ですので、処理の違いで債務超過となり、最悪、融資に影響を及ぼしてしまうかもしれません。
見えない負債
次に、「負債の部」では、リース料の処理も実態を正確に表しているとは言えません。最近では少なくなりましたが、自動車のリースが典型例です。
コピー機などのリースとは違い、通常「所有権移転外ファイナンスリース」と呼ばれ、仕訳では、(借方)車両運搬具/(貸方)長期未払金と処理すべきですが、毎月の割賦返済金相当額を「リース料」で処理しているケースがよく見受けられます。償却資産の内訳書に掲載されておらず、社用車があるとしたら、その可能性が高いと見るべきで、実際は「リース債務」という負債を抱えていることを認識しなければなりません。
国際会計基準では、2019年からファイナンスリースだけでなくオペレーティングリースについても資産とみなすことになっています。そして、隠れている最大の負債として「退職給付債務」があります。特に従業員が多い会社は注意しなければなりません。
就業規則に基づく退職金制度があるにもかかわらず、「退職給与引当金」が計上されていない決算書は実に多いです。100人規模の会社であれば数千万~数億円規模になることも考えられます。この数字を見逃して決算内容を評価することなど、絶対にあり得ないといえるレベルの重要科目です。
確かに、M&Aでもしない限り、財務デューデリジェンスを実施する機会などはないかもしれませんが、実際には多くの決算書が実態とは少なからず乖離しています。合法的に作成されている決算書ではありますが、一度リアルな姿を見てみてはいかがでしょうか? 判定・評価は「優良」、格付けは「正常先」であっても、実は多くの「含み損」や「隠れ負債」を抱えてしまっているかもしれません…。
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