№86-H30.8月号 消費行動に変化
「所有」から「利用」、「シェア」へ
若年層を中心に消費行動に変化が現われています。「所有」から「利用」または「シェア」へのシフトでは、自家用車の例がよく取り上げられますが、比較的高額な商品や奢侈品(しゃしひん)に見られる傾向と理解していました。
購入時に多額の支出があり、維持費にさらに負担がかかる「所有」よりも、カーシェアリングで必要な時に「利用」する方が確かにリーズナブルです。高度成長期やバブル期を経験された世代には、「所有」がある意味ステータスでもありました。
しかし、成熟期を迎え、デフレ経済が根付いてしまった今となっては、堅実志向が強まり、「所有」は生涯価値を上げるものではなくなっています。例外的に、住宅の販売は好調を維持していますが、これは政策的な要素が強く、減税や低金利の影響に他なりません。
近年では、「シェアリング・エコノミー」が生活にいつしか浸透してきています。これを「個人が所有する遊休資産の貸出しを仲介するサービス」と捉えると、民泊やシェアハウス、家事代行、メルカリ、ウーバー、クラウドファンディングなど、資産(モノ)に限らず、空間や情報、お金まで実に多岐にわたっています。
内閣府は7月25日、2016年の「シェア経済」の規模が総額4700憶~5250億円程度であり、そのうち950憶~1350億円程度がGDPに反映されていないと発表しました。政府もいよいよ「シェア経済」を視野に入れ始めたようです。
伸びる中古市場
次に、「所有」という括りで分類すると、中古市場にも活発な動きが見られます。経済産業省の推計によりますと、その規模は2017年に前年比1割増の2.1兆円に達するとの見通しです。
中でも、メルカリを中心とするフリマアプリを利用したネット取引の成長が大きく、中古市場の拡大に一役買っています。メルカリは、今まで家庭で眠っていた不用品(中古品)を手軽に出品できることが好評で、利用者は月1000万人、出品数は累計で10億個にまで増え続けました。C to Cの取引では、消費税もかかりませんし、売買の舞台が実店舗からネットに移行したことで、取引のハードルが下がったこともシェア拡大を後押ししている大きな要因です。
一方で、ネットでの中古市場が活性化すると、新品が売れなくなるという懸念もあります。これに対しては、売ることを前提に新品を購入する出品者も多数存在するため、既存の小売業にとって必ずしもマイナス要因にはならないというのが大方の見解です。
「中古品エコノミー」は、消費者の購買意欲を促し、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めているものの、日銀が切望している物価上昇を阻害する要因ともなり得るため、経済はある程度刺激されますが、景気への影響力となると微妙かもしれません。
定額サービス
そして、もう一つ、業績を伸ばしているのが「定額料金ビジネス」、いわゆる「月々○○円で使い放題」というビジネスモデルです。動画や音楽の配信サービスをはじめ、居酒屋の飲み放題、バイキング、1日電車・バス乗り放題券、遊園地のパスポート、広い意味では、レンタルモップ、雑誌の定期購読、コンサルタントや税理士の顧問料などがあります。
最近では、紳士服やドレスの定額衣料品レンタルも始まりました。このサービスの魅力は、何といっても期間内は「利用制限なし」という羽振りの良さです。一見、この上ないお得感を感じますが、例えば、居酒屋の飲み放題、本当にそんなに飲めるものでしょうか? 場合によっては、従量課金制の方が有利なのですが、つい「○○放題」という言葉に魅了されてしまいがちです。心理的に「定額性」には漠然とした安心感が伴います。「従量制」が得であったとしても、多くの人は「もし、使いすぎてしまったら…」とか「損したくない」という不安感を払拭したいという心理が強く働いてしまうのです。
今回ご紹介した「利用」、「シェア」、「中古」、「定額性」を商機とするか否かは規模や業種にもよります。これらは一例にすぎず、経営者はいつも消費行動の変化を敏感に見定め、適切に対応していくことこそ、ビジネスの継続・発展の根幹であるということを忘れてはいけません。
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