№94-H31.4月号 新紙幣発行の影響
キャッシュレス社会との矛盾
新元号の発表に続き、今月9日財務省と日銀より新紙幣(日本銀行券)発行とそのデザインが公表されました。紙幣のデザイン改定は20年サイクルでの実施ということで、今回も2024年度の上期を目途に2004年以来の刷新となる予定です。
今回1万円札の肖像に渋沢栄一氏が起用されたことも、日本初の銀行「第一国立銀行」(現みずほ銀行)を手掛けたという功績などから最高額面の紙幣に相応しい人選だと思います。大隈重信という声も散見されたようですが、専門家によれば、近年では政治家が採用されるケースが無くなっていることも不採用の理由になったとのことでした。
私がこの発表を聞いて最初に感じたことは、政府が急ピッチで進めているキャシュレス決済との矛盾です。以前このレポートでも取り上げましたが、今年10月の消費税率引き上げを期に、ポイント還元制度の導入でキャッシュレス割合も促進されることが見込まれます。しかも、今年度中ではなく、発表から5年後という時期の変更です。この変化の速い時代に5年後はキャッシュレスが相当進むと考えられるのですが、その頃は少なくとも、高額紙幣の需要が高まることは考えにくいでしょう。
あるシンクタンクの調べでは、これによる経済効果がATMの改修など1.6兆円、名目GDP比で約0.2ポイントに相当のとのことですので、オリンピック後の景気浮揚要因の一端になる程度のことは期待できるかもしれません。
デザイン刷新の効果
スピード感にはやや疑問を感じますが、デザイン刷新の効果はいくつか考えられます。ニセ札対策という点では、そもそも精巧な偽造防止技術が施されていますので、それ程影響はなさそうです。
しかし、推定50兆円とも言われる「タンス預金」については一定の影響が考えられ、旧紙幣が店舗で使いにくくなることや、各種自販機・券売機が対応しなくなることで消費に回るという動きにつながる可能性があります。国家予算の半分程度の金額が世に出回ることになれば効果としても大きく、経済の活性化も図れるはずです。
また、税務当局にとっても脱税摘発にはこの上ない機会になります。よくドラマ等で見かける光景に大量の現金を自宅に隠蔽する脱税行為がありますが、紙幣の交換に焦って銀行に持ち込んだり、金地金を爆買いしたりすれば、そこから発覚してしまうということにもなるでしょう。特に、相続対策での現金化による課税逃れは決してレアなケースではないため、5年先となれば流石に今から大量の現金を引き出すことは困難になります。
いずれにせよ、膨らんだ「タンス預金」をあぶり出すという意味では、相応の役割を果たし、消費拡大効果をもたらす契機になることは間違いありません。
注意喚起、キャッシュレス加速?
過去に発行されたすべての旧紙幣は、法律上今後も額面通り使えます。しかし、それを悪用した詐欺が横行することも考えられ、当分の間は注意が必要です。予想される手口としては「旧紙幣が使えなくなります。交換のため係の者がご自宅まで回収に伺います」といった内容でしょうか。
このように新紙幣発行には様々な影響が伴うわけですが、新元号の下でワクワク感を増幅させるという意味では是非実施してもらいたいイベント? です。
一方、ATMなどの改修費用といったインフラコストは年8兆円との試算もあり、金融機関はこの負担を抑えるためにも、むしろキャッシュレス対応へのシフトを加速させることに注力するとも言われています。2024年、新紙幣の発行時には果たして世の中がどのような情勢に変化しているのでしょうか?
最後に余談ですが、数年前、日本銀行前にある貨幣博物館を訪れた際、紙幣や貨幣の変遷を知る機会があり、日本最古のものは1800年代に登場し、菅原道真や神功皇后が肖像として描かれていました。その後、日銀の見学では、裁断された紙幣がお土産だったと記憶しています。
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