№101-R1.11月号 「値決め」の重要性

値決めは経営

商売の一連の活動に「値決め」という作業があります。「値決め」つまり、価格は売り手と買い手の接点であり、互いの合意のもとに成立します。京セラの稲盛和夫氏も語る通り、値決めは経営の要諦」であり、「経営の死命を制するのは値決め」です

先月の消費税率引き上げを機会に、多くの企業が価格の見直しに着手しました。今後、キャッシュレス化の浸透を前提に、近い将来クレジットカード会社への手数料分等が値引きになることを見込んでの事前対策です。私は様々な現場を訪れる中で、各企業で「値決め」に対する温度差が非常に大きいことに気付きました。

当然ながら、希少価値の高いものを扱う企業は価格設定も強気であり、競合が多い企業ではとても慎重になります。しかし、共通して感じることは、値決め」をする際、無意識のうちに売り手の都合を優先させていることです。

例えば、「原価が上がるから値上げする」、「容量を減らして価格は据え置きにする」、「多少の品質低下はやむを得ない」などの意見が、販売会議などの膠着した場面で頻繁に飛び交います。しかし、決して忘れてはならない値決め」の本質とは、「買うのはお客様」という視点ではないでしょうか…。

価格の決まり方

少し学問的になりますが、価格の決まり方で、最も一般的なものは「市場価格」です。需要量と供給量の関係で成立する価格で、卸売市場、小売市場、労働市場、株式市場など、世の中にはさまざまな市場が存在します。

経済学でよく見る「SD曲線」の交わる点「均衡価格」で「市場価格」は決まり、供給<需要であれば、価格は上がり、供給>需要であれば下がります。市場経済の下では、価格の上下によって、消費者の需要量や企業の供給量が自動的に調整される(価格の自動調整機能)ことで、常にバランスが保たれた状態にあるということです。

次に、管理価格ですが、いわゆるプライスリーダーが事実上決める価格のことです。例えば、ビール業界などで支配力が大きい企業が価格を引き上げると、他の企業も追随するため、価格競争が避けられる状態になります。管理価格」が形成されると、価格が下がりにくくなるため(価格の下方硬直性)、消費者にとっては厳しく、生産者(供給者)側の良識やモラルが求められます

最後は「公共料金」で、ライフラインなど生活に密着したサービス等、政府や地方公共団体が決定、許可する価格です。これらは自由競争にしてしまうと、価格が高騰しがちで、国民は死活問題になってしまいます。最近では、携帯電話料金も「管理価格」に近い状態で、政府の値下げ要求に対する各社の対応を興味深く見ています

進化する値決め

企業の価格政策(プライシング)は、多岐にわたり、日常目にする機会も多く、消費者への向き合い方が重視されてきています。量販店に見られるEDLP(エブリデーロープライス)や航空券やコーヒーショップでのプライスライン価格、複合機やウォーターサーバーのキャプティブ価格(本体は低価格で販売し、消耗品を高価格設定する)などは、既に世間に受け入れられている政策です。

最近、日経新聞でダイナミックプライシングという記事を目にしました。主に小売店が、需給や繁閑を反映して瞬時に価格変更をできるもので、例えば、家電量販店が商品ごとに表示をデジタル化した「電子値札」を設置し、売れ筋や在庫状況、競合店やネット販売の情報などを総合的に分析して価格を設定するシステムです。本部で一括管理し、価格が複数の要因でリアルタイムに反映するため、極端な例では、品定めの最中に価格が変わってしまうこともあり得ます値決め」も相当進化した印象です。精緻で納得感はありますが、価格は市場に委ねられます。自由競争が前提である以上、値決め」を重視せず、お客様目線で考えなければ、市場からの撤退に直結します。これを機会に「値決めは経営の要諦」あることを今一度意識してみて下さい。

 

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