№109-R2.7月号 経営に役立つ『論語』
商売と「利」
『論語』は孔子の言行をその死後に弟子たちが記録した書物と言われており、約2500年もの間受け継がれています。そして、『論語』には経営に役立つ「成功の秘訣」が満載です。今回は数ある名言のうち、ほんの一部を紹介させていただきます。
最初は商売とは切り離せない「利」に関する言葉で、「利を見ては義を思う」です。「利益を得るとき、それを得るのは正しいかどうか考える」という意味で、ここでは『論語』ではお馴染みの「義」(正しい行い)という言葉も登場します。
松下幸之助氏も「商売30箇条」の第一条で「商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」と述べている通り、商売において、利益は奉仕(=良い仕事)の結果であることが前提です。
また、孔子は「利によって行えば、怨み多し」とも言っています。つまり、「何事も自分の利益だけ考えて行動すると、人から怨まれることが多い」と言う意味です。
この言葉で思い出すのは、渋沢栄一氏の『論語と算盤』でしょう。彼の中心的思想である「道徳経済合一説」は、「企業の目的が利潤の追求にあるとしても、その根底には道徳が必要であり、国ないしは人類全体の繁栄に対して責任を持たなければならない」という主張です。
このように『論語』で語られる「利」は多くの偉人に影響を与え、商売における考え方の原点となっていることがわかります。
素直な考え方
次に紹介するのが「之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為せ。是を知るなり」です。
「自分の知っていることは知っているとし、まだ知らないことは、どこまでも知らないとはっきり区別する。これがほんとうに知るということだ」と訳され、有名な言葉ではソクラテスの「無知の知」を連想させます。経営には「素直な心」が不可欠ですが、意識し続けることは本当に難しく、とても奥が深いです。
アインシュタインは、「学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる」という名言を遺していますし、松下幸之助氏は「素直な心とは、何物にもとらわれることなく物事の真実を見る心。だから素直な心になれば、物事の実相に従って、何が正しいか、何をなすべきかということを、正しく把握できるようになる。つまり素直な心は、人を強く正しく聡明にしてくれるのである」と語ります。
社会への貢献もさることながら、『論語』でいう「君子」たる人物は共通して素直で謙虚です。
成功者の指南書
最後は「子、四を絶つ。意なく、必なく、固なく、我なし」で、「先生は四つのことを絶った。自分勝手な心を持たず、無理強いはせず、執着もせず、我を張らない」という意味です。
経営においては、「常に相手側の立場で物事を考える」と置き換えるとしっくりきます。ワンマン経営者にありがちな「私心、独断、頑固、我欲」は会社にとって「百害あって一利なし」です。
近鉄の「中興の祖」と呼ばれる佐伯勇氏が「独裁すれども独断せず」と語るように、企業は「衆知を集める」ことを重視しなければなりません。
これに関連して、孔子は「君子は言を以って人を挙げず、 人を以って言を廃せず」とも言います。「立派な人は、巧みな言葉を聞いてもそれに左右されず、また相手がどのような身分の人でも、きちんと話を聞く」という意味です。聴く姿勢が経営者の備えるべき素養であることは今更ながら言うまでもないでしょう。
このように『論語』には、経営者が成功するために必要な考え方が随所に込められています。そして、それを裏付けるかのように成功者と言われる人々が実践してきました。その存在自体が実証している通り、正しい考え方は経年で朽ちることはありません。
企業を成功に導くことはもちろん、その前に「人としてどうあるべきか?」という問いを十分に意識したいものです。「経営者として相応しい言動とは?」是非これを機に『論語』から何かヒントをつかんでみて下さい。
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