№120-R3.6月号 付加価値の捉え方
付加価値とは
企業の存続という観点で最も意識すべき指標は「付加価値」ではないでしょうか? 通俗的に「付加価値」とは、企業による事業の結果として生み出された製品・サービスなどに独自の価値を付けることであり、「付加価値額」とは、その生み出した企業独自の価値を数値で表したものと解釈されます。
当レポートでも度々紹介していますが、身近なところで最も数値の大きい指標はGDPです。国内での付加価値の合計額であり、各国との経済力比較や前年との対比で経済成長率増減の目安としても利用されます。コロナ禍でのワクチン接種の遅れも影響して、直近1-3月期の国内名目GDPは542.5兆円で、物価変動の影響を除く実質の季節調整値で直前10-12月期から6.3%の減少という状況です。
繰り返しになりますが、GDPが国内の付加価値の合計であれば、そこからの最大の分配は雇用者報酬になりますので、GDPが上がらなければ(経済成長率が上がらなければ)決して給料も上がりません。マクロ的な視点からも「付加価値」の重要性を理解し、経営者としてGDPの動向は是非注視して下さい。
売上総利益(粗利益)としての付加価値
企業財務での「付加価値額」は、一般的に損益計算書の「売上総利益(粗利益)」を指します。説明するまでもなく、計算式は「売上高-売上原価(外部購入価値)」です。
業種によって「売上総利益率」は異なりますが、例えば、中小企業では製造企業24.9%、卸売企業15.8%、小売企業29.1%、飲食企業56.8%のようなデータもあります(経産省「商工業事態調査」)。
弊社のようなコンサルティング業は「売上総利益率」100%ですが、他業種より人件費支出が多い傾向にありますので、一概に「売上総利益率」だけでは企業業績の良し悪しは判断できません。
しかし、「付加価値」という見方では、同業種の平均的な数値と比較して自社独自の貢献度が高ければ、目標とする最終利益や手元流動性の増加を達成しやすく、企業経営の安定化と継続に大いに寄与することになります。業績評価においても「売上総利益率」は安全性分析の中で最も重要な指標の1つです。
積み上げる付加価値
緊急事態宣言による自粛の影響もあり、最近では補助金や給付金の申請機会が増加しています。その審査項目で多くの場合問われるのが「付加価値額」です。今回の「事業再構築補助金」に関しても、年率平均3%以上の増加(総額、または従業員一人当たりのいずれか)が必須条件となっています。
ここで「付加価値額」として求められる計算式は、「営業利益+人件費+減価償却費」ですので、言い換えれば「人件費や設備投資を積極的に実施して、伸び率で年率平均3%以上達成すれれば、今は赤字でも補助金の対象にします」という趣旨です。
実は、中小企業庁方式と呼ばれる前述の「控除法(売上高-売上原価)」以外に、日銀方式と呼ばれる「積上法」も存在します。補助金等で求められる計算法は「積上法」に分類されますが、本来は「純付加価値額」として「経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課」の算式を用いることが一般的です。
こちらは生産の過程で産出された価値を積み上げていく考え方で、先程の算式と異なる部分は「減価償却費」の有無になります。「減価償却費」は、他社から購入した固定資産にかかる費用のため、自社が生み出した「付加価値」には含めない、というのが理由です。
このように捉え方に差はありますが、具体的に規模の拡大を目指すのであれば「付加価値」の総額を増やしていく必要があり、収益性を重視するのであれば「付加価値率」と「付加価値生産性(付加価値÷従業員数)」を高めることに注力する必要があります。各場面で求められる「付加価値」の意味を正確に理解し、それを高める方策を打ち出すことが企業活動における使命です。
例え補助金や助成金の受給を目的に作成した数値目標からでも「付加価値」を意識することで、中長期的には間違いなく業績に差が出ることになります。
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