№121-R3.7月号 国勢調査の結果を受けて

総人口の減少

前月25日に、総務省より5年に1度の国勢調査(速報)が公表されました。日経新聞朝刊の見出しは日本の総人口0.7%減 1憶2622万人 世界11位に転落で、特に人口動態への注目度の高さがうかがえます。

正確には「2020年10月1日時点の日本の総人口(外国人を含む)は1憶2622万6568人で、2015年の前回調査に比べて0.7%(86万8177人)減少」で、総人口の内訳は男性が6136万14人、女性が6486万6554人という調査結果です。市町村別では、全国1718自治体の8割超で人口が減る中、子育て支援の拡充等様々な工夫を凝らして着実に人口を増やしている自治体もあります

今回人口増加率でトップだったのは千葉県流山市で14.7%、全国平均の-0.7%を大きく上回り、逆に減少率トップは北九州市の-2.25%、僅差で新潟市や長崎市が続き、かつて日本経済を支えてきた都市の衰退が進行している状況です。また、人口増加の自治体は「合計特殊出生率」も高い傾向があり、千葉県流山市は1.58(全国平均1.43)で、充実した育児支援策の効果が裏付けられています。

個人的に総人口は約1憶2700万人と記憶していましたので、今回の調査結果を見る限り予想を覆すほどの人口減ではなかった印象です。しかし、厚生労働省が今年2月に発表した人口動態統計速報(2020年12月分)」(2020年1月から12月速報の累計)では、出生数が87万2,683人で過去最低、死亡数は11年ぶりの減少で138万4,544人というデータもあり、5年後はコロナ禍で人口減が加速することが想定されます。

世帯人数の減少

同調査結果より1世帯当たりの人数」の減少が全国レベルで想像以上に進んでいる実態も表面化しました。少子化に歯止めがかからない限り当然の傾向ではありますが、高齢化の進展で家族によるケアが受けられない独居も相当増えているようです。

以前から「核家族」化の問題は取り上げられていましたが、昨今では親族世帯からさらに単身世帯の増加という問題に発展しています。今やサザエさんのような大家族はもちろん、日本の標準世帯として例示される夫婦子2人(有業者数1人)世帯さえも総世帯の5%に満たず、例外的なモデルです。今回東京が全国最低の1.95人(全国平均2.27人)で初の2人割れという衝撃的な結果となりました。

地方都市にも単身世帯が増えており、医療や介護体制への不安も浮き彫りになってきています。国家予算に占める社会保障費の割合が増え続ける中、世帯内での介護がある程度増加を抑える役割を担っていましたが、この結果からも生産年齢層は今後さらなる負担増を覚悟しなければなりません。

課題は労働生産性

人口減を不安視する理由は、日本の経済成長を鈍化させる可能性を高めることにあります。世界の現状を見渡しても経済成長が著しい国は確実に人口が増えています。

かつて日本も高度経済成長期には人口が増え続けていました。政府が移民政策をとらない立場を取り続けてきたことや、生活レベルが高水準になったことなども人口が増えない要因と言われており、労働力人口の面では、近年働き方改革を契機に非正規雇用の待遇を改善し、女性や高齢者の積極的な労働参加を促しています。

一方で(労働)生産性の向上」というフレーズも見聞きする頻度が増え、労働力人口の減少はある程度止むを得ないという前提に立っていることも事実のようです。

7月4日付の日経新聞朝刊1面には各国の「労働流動性と生産性」の関係が掲載されており、勤続年数が10以上の雇用割合が多い日本は時間当たり労働生産性が低いというデータが示されていました。日本型雇用は見直されつつあるものの、労働流動性の低さは生産性の向上に結び付かないという傾向も新たな課題となっています。総人口の減少は自らコントロールできる問題ではありませんが、労働生産性を高める工夫は可能です

今回の調査結果を受け、改めて今後の企業の在り方を考える契機を得たような気がします。

 

<複製・転写等禁止>