№124-R3.10月号 最低賃金の最低知識

最低賃金が全国で800円超

今月1日から各都道府県で最低賃金が引き上げられました。7月14日の厚生労働相の諮問委員会で「全国平均で28円を目安に引き上げる」という旗印のもと、9月には正式に各都道府県の最低賃金額が発表されましたので、既に該当地域がどの程度引き上げられたかについてはご承知のことと思います。

昨年は新型コロナウイルスの影響で、「現行水準の維持が適当」という判断もあり、40県で1~3円の上昇にとどまりましたが、今年はその反動が一気に出た印象です。

厚生労働省は、最低賃金制度を「最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度」と定義していますが、タイミング的にコロナ禍で売り上げ回復の見込みが立たない業種の経営者にとっては、ダメ押し的な内容になるかもしれません。個人的には、もう一年現状維持すべきであったと感じています。

今回注目すべきは、全都道府県で800円を上回ったことです都道府県別では、最高は東京の1,041円、最低は高知、沖縄の820円(愛知県は955円)となっていますが、物価が思惑通りに上がらない中、全国的に800円を超えたことは労働者にとって大きな誘因であり、消費が活発化して景気が回復することに期待が集まります。

最低賃金の2種類の基準

最低賃金には、前述した「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類の基準があり、どちらも適用される場合は、高い方の賃金が優先されます

「地域別最低賃金」は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用され、「特定最低賃金」は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に対して適用される最低賃金基準です。「特定最低賃金」は、あまり聞きなれないかもしれませんが、全国で226件の最低賃金が定められています。

例えば、愛知県は9つの業種で、「製鉄業、製鋼・製鋼圧延業、鋼材製造業(表面処理鋼材を除く。)」などが該当し、大部分が955円(地域別最低賃金)を下回っていますが、内2件は超えている状況です。定期的に金額が改定されていますので、該当業種はこの時期「地域別最低賃金」の公表の際に「特定最低賃金」も念のためご確認下さい

ご参考までに、「地域別最低賃金」額を守らなかった場合は50万円以下の罰金、「特定最低賃金」額を守らなかった場合は30万円以下の罰金が科されます。

価格転嫁でのカバーと政府の後ろ盾

最低賃金は時給で表示されますが、一般的な企業の場合、賃金は日給や月給で支給されますので、正確な時給換算が必要になります。対象となる「賃金」とは、「基本給+諸手当(精勤・皆勤手当、通勤手当、家族手当を除く)」で、臨時に支払われる手当(結婚手当など)や1カ月を超える期間ごとに支払われる賞与、時間外勤務手当は対象になりません。

月給の場合は、1カ月の平均所定労働時間で除して金額を算出しますが、手計算では比較的煩雑なうえに正確性も要求されますので細心の注意が必要です。社員数が20名を超える場合は給与計算ソフトの導入や社会保険労務士などの専門家に確認してもらうことをお勧めします

最後に、少し見方を変えますが、この最低賃金の引き上げ時期を見計らって、経済産業省が納入先の大企業が賃上げ分の価格転嫁をどれだけ受け入れているかの実態調査に乗り出しました。目的は、適切な価格転嫁によって賃上げと物価上昇の好循環を目指すことにありますが、今回は転嫁の受け入れ度合いを業種別にランク付けして2022年初めをめどに公表するようです。

中小企業は、最低賃金の引き上げに相当する人件費の上昇を価格に転嫁にできなければ、企業収益は圧迫され、実質的に賃上げは進みませんそうした意味では良いタイミングでの政府の後押しですが、果たして筋書き通りに展開するでしょうか…。

月初めからの最低賃金引き上げが、予想に反して好景気への起爆剤になることを願いつつ、新政権が掲げる経済政策「新しい日本型資本主義~新自由主義からの転換~」に暫し期待してみます。

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