№126-R3.12月号 物価上昇に対する許容
供給制約による物価上昇
物価の値上がりが日常生活において各所で感じられるようになってきました。新型コロナウイルス禍で落ち込んでいた個人消費が、感染の終息傾向で急激に回復する一方、モノの需要に対し、人手不足や物流の停滞などで供給が追い付いていない状況が現場では起こり始めています。
また、世界的な半導体不足で自動車やスマートフォンの生産にも支障が出始め、納期まで数ヶ月かかるという事態が続いているようです。このように、供給制約による需要の逼迫は、一般的に物価の上昇要因となります。
国内では、消費者物価指数(CPI)を見る限り、生鮮食品を除く総合の数値で前年同月比僅か0.1%上昇ですが、米国では直近の11月で6.8%(39年ぶり水準)も上昇しており、足元の原油高騰に加えて、年末商戦が本格化し、半導体から食料品まで広範囲で供給不足が続いている状態です。
物価が上昇しないことは消費者にとって喜ばしいことのように感じますが、以前にもお伝えした通り経済成長していないのと表裏一体の関係でもあります。商品やサービスの価格を上げられない→利益が伸びない→昇給できない→消費が伸びないという悩ましいサイクルが解消されない限り、本当の意味での景気上昇もないでしょう。中長期的観点では、今回の需要回復期に多少の物価上昇圧力は容認する覚悟が必要かもしれません。
消費者物価はなぜ上がらないのか?
マクロ経済の統計を継続的に見ていると、ある不思議な現象に気付きます。今年3月あたりから現在にかけて、輸入物価や国内企業物価(卸売物価)は上がっているのに、末端の消費者物価がほとんど上がっていないのです。
特に、輸入物価の上がり方は顕著で、直近の10月では前年比38.0%の増加となっています。つまり、輸入品は大幅に上がっていて、卸売段階までは上乗せできているものの、最終消費価格は何故か上がっていないという状況です。
身近な例をあげても、ガソリン価格はもちろん、小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物、ブロイラー(鶏肉)などが大きく値上がりしています。原油に関しては産油国の事情も含まれますが、運送業の負担は増え、食料品に関しては小売業や飲食業、消費者(生活費)にも大きく影響しているはずです。
デフレマインドが浸透してしまっている国内においては、消費者に中々値上げが受け入れられず、生産性の向上や商品の量で調整するなどの企業努力で何とかカバーしてきたことが、消費者物価(指数)が上がっていない理由ではないかと考えます。
しかし、最近ではさすがにこの状況に耐えられなくなり、牛丼チェーンを始め、飲食店各社がメニューの値上げに踏み切りました。消費者志向とはいえ、企業体力にも限界があると考えますので、個人的にはこうした決断を評価したい立場です。
良いインフレと悪いインフレ
モノの値段が上がると、相対的にお金の価値が下がり、いわゆるインフレの状態が起こります。実は、インフレには、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があり、「良いインフレ」は、景気が良い状態が続いて物価が上昇するインフレです。モノがよく売れるため、需要が供給を上回り、必然的にモノの値段が上がります。
逆に、「悪いインフレ」とは、輸入物価が上がることで原材料や食料品などの企業コストが増え、商品の価格に転嫁されることで物価が上昇するインフレです。円安が進んだ場合も輸入物価が上がる要因となります。輸入品の価格が上がることでの物価上昇は、資金が国内で還流せず、海外に流れていくだけですので、「悪いインフレ」と呼ばれる所以です。
今回の物価上昇は、何かいやな予感がします。現状から判断すると、「悪いインフレ」は、物価が上昇するのに不況に陥るスタグフレーションを引き起こすかもしれません。補助金や給付金が有効に使われることで、企業が適正な価格でモノが売れるようになれば、「良いインフレ」へとシフトし、景気を上向きにしていくことはまだまだ可能だと思います。
中小企業は、安売り競争で資本力のある大企業に太刀打ちできません。物価の上昇は、自社の商品やサービスが「良いモノ」で、値上げすることが可能かどうか、見つめ直す良い機会でもあります。
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