№130-R4.4月号 円安の要因と影響

有事の円

円安が速いペースで進行しています。昨日(4月14日)の終値が125円ですので、記憶が確かであれば昨年(2021年)1月に1ドル=103円を付けた頃と比較しますと、それを約22円も上回るペースです。当時、1,000万円の余剰資金をドル建ての預金に振り替えていれば、為替差益だけで200万円以上儲かっていた計算になります

約1年前の米国は、コロナウィルスが蔓延し、投票結果を巡る異議申し立てなどで新大統領就任が遅れるなど不安定な状況がドル安を誘引していました。有事の円」と呼ばれることがありますが、世界的なコロナ禍で円が買われた時期です。

他にも、2008年9月のリーマンショック時には約3カ月で1ドル=106円から87円へ一気に20円近くも円高に振れ、2011年3月に起こった東日本大震災の際にも一時1ドル=76円台まで急伸しています。

リーマンショック後は、危機から脱出するための米国の大規模な金融緩和を受けたドル安(円高)であり、東日本大震災後は、日本の保険会社が保険金を支払うため、外貨建て資産を円に転換するだろうという思惑からの急激な円高でした。

しかし、今回のウクライナ危機では逆に円安が進んでいる状況です現段階で日本への影響が限定的な「有事」とも考えられますが、安全資産としての円の評価も下がりつつあるのかもしれません。

日米金利差の拡大

米連邦準備理事会(FRB)は3月15、16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、消費者物価指数(CPI)が2月に前年同月比7.9%と約40年ぶりに上昇したのを受け、3年ぶりの利上げに踏み切りました。

一方で、日銀は18日の金融政策決定会合で大規模緩和の維持を決めたため、今後日米の金利差が広がるという憶測が高まり、世界のマネーが利回りの見込めるドルに向かい、円安ドル高が進んでいます

この状況下での利上げに加え、原油高やウクライナ危機などが複合的に入り組むと、基軸通貨でもあるドルの価値が当分高まる傾向にありそうです。

本来は日本も利上げに追随したいところですが、できない事情があります。今の状況で金利が上がった場合、日本政府や日銀、さらには日本経済に多大な影響が及ぶ可能性があるからです。

金利が上がるということは、国債の価格が下がることを意味します。そのため、日銀は日本の国債市場において売り圧力が高まることで価格が下落することを回避するため、金融緩和を継続(国債の無制限の買い入れ実施)せざるを得ないというわけです。

具体的には、金利が上がれば、日本政府は1,000兆円を超える債務の利払い(金利1%上昇で消費税約4%分の税収が必要)が増加してしまい、企業は長期設備投資、国民は住宅ローンなどに影響します。以前にもお伝えした通り、金利引き上げが許容されるのは、需要が拡大して物価が上昇し、好景気となったタイミングです。

経常赤字への転落

為替は国の財務状況にも影響します。最近では、過去の円高で、製造業が海外での現地生産へとシフトしたため、財政での円安のメリットが薄れてきている印象です。原発事故による化石燃料への依存などで原油やLNG高の状態が続くと円安は貿易収支を圧迫し、国債の信認を担保している経常収支が赤字になるという事態を引き起こします。

ブラジルやトルコのように、経常赤字国は通貨が安くなる(売られやすくなる)傾向にありますので、円安がさらなる円安を呼ぶ負のスパイラルを招く可能性は十分に考えられます。

財務省の統計を見ても、昨年の8月以後2月まで7カ月連続で貿易赤字が続いており、経常収支も2月は米国債の利払い収入が貿易赤字をカバーして何とか3カ月ぶりに黒字を確保できた状況です。今年度は経常赤字になると分析しているエコノミストもいますので、放置すれば円安の進行は今後日本の財務力を徐々に奪うことになるでしょう。

為替は、金利以外にも経済成長率や需給にも影響します。生産性の向上や魅力ある製品やサービスを発信することで適正なレートが維持されるよう我々事業者も独自の貢献を通じて働きかけたいものです。

 

<複製・転写等禁止>