№132-R4.6月号 銀行取引で知っておくべきこと
元金均等返済と元利均等返済
欧米各国は物価高を抑制するために中央銀行が金利を上げて積極的な金融引き締め策を実施していますが、日本は唯一物価上昇時にもかかわらず、「イールドカーブ・コントロール」などと称して、金融緩和を継続しています。豪雨で大多数の家が雨戸を閉めているのに、1軒だけ窓を大解放しているような状態です。
日銀は、資源高は一時的との見解ですが、他国(特に米国)との金利差が開くと、さらなる円安が進むため、今後は少しずつ金利を上げる政策を取らざるを得ないでしょう。
金利が上がれば、融資や住宅ローンにも影響が出ます。その際に、金利負担を抑えようとすると、返済方法は「元金均等返済」と「元利均等返済」ではどちらを選択すべきでしょうか?
結論から述べますと、元金を返済期間で均等に割り、毎月の残高に応じて利息を計算する「元金均等返済」の方が金利の総額は安くなります。
具体的に、「借入額1,000万円、金利3.0%(固定)、返済回数120回(10年)」のケースでは、金利合計が「元利均等返済」が1,587,236円に対して、「元金均等返済」は1,512,460円です。
そのため、特に要望しなければ、金融機関から融資を受ける際には「元金均等返済」で組まれます。最近では「元利均等返済」の返済明細はほとんど見かけなくなりました。
実行(表面)金利と実質金利
金利を考える際に、もう一点注意すべきことがあります。それは、「実行(表面)金利」と「実質金利」の違いです。
「実行(表面)金利」は、金融機関から提示される契約条件の金利そのままを指します。これに対し、「実行金利」は、融資を受けている銀行の預金及び預金利息を考慮して計算した金利です。
例えば、A社とメインバンクとの取引が「融資条件:3,000万円(実行金利1.5%)、定期預金:1,000万円(預金利息0.002%)」、A社とサブバンクとの取引が「融資条件:1,000万円(実行金利 2.0%)、定期預金:なし」(いずれも、普通預金残高は平均的に500万円程度で推移し、定期預金、普通預金ともに融資を受ける銀行に対するもので、普通預金の利息は僅少であるため、ゼロとする)のような場合、
「実質金利(=(借入金利息-預金利息)÷(借入金-預金))」を計算すると、メインバンクが3.0%に対し、サブバンクは2.1%となっています。メインバンクからは1.5%の「実行(表面)金利」で融資を引き出していたつもりが、相殺できる預金も多いため実際はサブバンクの方が有利な条件で借りていることになっているのです。銀行はこのことを当然理解していますので、融資を考える際には「実質金利」まで踏み込んだ交渉をする必要があります。
借入本数の増加は資金繰り悪化要因
最後は、追加融資をする際の注意点です。事業が軌道に乗り、B銀行から運転資金として①1,000万円(返済期間5年(60カ月)、金利1.5%)の融資を受けることになったとします。
月々の返済月額は166,000円です。①の返済が500万円進んだ時点で、B銀行の勧めで②500万円(返済期間5年(60カ月)、金利1.0%)の追加融資を受けることにしました。今回の返済月額は83,300円です。
そして、さらに①の返済が300万円、②の返済が150万円進んだ時点で、B銀行の担当者から③450万円(返済期間5年(60カ月)、金利0.7%)の追加融資を頼まれ、承諾したとします。
社長は、借入残高が当初の1,000万円で、金利も徐々に優遇されているため、このような一連の追加契約に応じがちです。しかし、①の時点も③の時点も確かに借入残高1,000万円は変わりませんが、キャッシュフローには大きな差が生じてしまいます。
①では166,000円/月ですが、③では324,300円/月で、ほぼ倍の返済額です。②の時点で1,000万円借りて、既存残高の500万円を返済するという条件の追加融資であれば、このような結果を招くことはなかったでしょう。
銀行取引では気付かないうちに不利な条件になっていることがあります。「お付き合い」の部分を含め、取引内容を十分に理解したうえで、銀行と良好な関係を維持することが重要です。
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