№136-R4.10月号 大企業の中小企業化

大企業が続々と減資する現状

コロナ禍の業績不振で、大企業が相次いで資本金を1億円以下に減資しています2015年に経営再建中のシャープが減資を試みた際には、大企業の社会的責任と役割に対する批判が相次ぎ、1億円への減資を断念した経緯は記憶に新しいところです。

しかし、コロナ禍に伴う外出自粛等の影響は大きく、JTBのほか、中堅航空のスカイマークや全国紙の毎日新聞社といった有名企業、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト、居酒屋「はなの舞」を運営するチムニーなどが続々と減資を発表しています。

東京商工リサーチのデータでは、2020年度に資本金を1億円超から1億円以下に減らした企業は997社で前年度の1.4倍ですJTBを始め、減資を決めた有名企業の多くは非上場のため、一般株主から批判を受けることはなく、減資手続きへのハードルが低いことなどが要因かもしれません。

最近では、HISも自社ビルに続き、黒字を継続していたハウステンボスの運営子会社を投資ファンド系の特別目的会社に売却するなど、会社を身軽にしたうえで(4月末時点で247億円あった資本金を)1億円へ減資することを決議しました。

大企業の減資は、新型コロナウィルスの終息が見込めず、業績の悪化に歯止めがかからない現状において、生き残りのための最終手段として止むを得ないなど、擁護の声に変わりつつあります

税制上の優遇策

資本金が1憶円以下になると、税制上「中小企業」となり、税の優遇措置が受けられます減資の最大の目的はこのメリットを享受することです例えば、地方税には外形標準課税という制度があり、資本金が1憶円超であれば巨額の赤字を計上しても法人事業税が課税されます

具体的には、資本金に掛かる「資本割」が東京都では0.525%ですので、減資前のHISであれば、129,675千円(247億円×0.525%)の税負担です(他に「付加価値割」も対象になります)。HISのケースでは、この外形外しで一定の効果を得られることより、むしろ前述のハウステンボス売却に伴う646億円に及ぶ売却益に対する法人税を回避することに主眼が置かれていると考えられます。

資本金を1億円以下にすることのもう一つの大きなメリットは、利益がすべて繰越欠損金と相殺可能になることですHISは2021年10月期まで2期連続で計750億円の最終赤字を計上していることもあり、今回の売却益と相殺することで、法人税の納税がなくなります。この売却益で得た資金を残すことができれば、経営再建の大きな足掛かりになることでしょう

大企業にとって、中小企業になることは、決して到達点ではなく、難局を乗り越えた先に再び大企業に返り咲く機会をうかがう期間と考えることもでき、現時点での規模縮小を一概にネガティブと捉えるのはやや短絡的な気がします。

中小企業が優位な時代

今年4月には、東京証券取引所の市場区分が見直され、最上位のプライム市場に上場する企業も1839社となりました。スタンダード市場やグロース市場を含めて、約4,000社の大企業には引き続き日本経済を牽引してもらわなければなりません

愛知県出身で元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏の著書『会社がなくなる!』に「今後は大企業の中小企業化が進む」というフレーズがありましたその根拠として「日本の企業は1970年代から複数の子会社の部署にバラバラに支払っていた経費を大企業化することで集約し、抑えてきたが、大企業社員の高齢化に伴い、一人頭の経費は大企業のほうが中小企業より高くなっているため、今度は分散化へのベクトルが働く。

もはやそれほど大人数を必要としない産業構造へ変化によって、中小企業のほうが魅力的になってくる」と述べています。EV(電気自動車)への急速なシフトで自動車産業がモジュール化することも、系列企業間の調整作業が減り、参入障壁が下がることで、決定の早さ、機動力で中小企業の進出機会は増えそうです。中小企業化への決断は「変わる勇気と覚悟」でもあり、今後も変化を厭わない企業が生き残る傾向は一層強くなると予想されます。

 

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