№144-R5.6月号 紛らわしいビジネス用語
付加価値
コンサルの現場では日々経営に関する様々な会話がなされますが、その中で比較的重要なビジネス用語について、「もしかしたら認識が違っているかも」と感じることがあります。
例えば、前月「生産性の向上」に触れた際も「付加価値」というキーワードが何度か登場しましたが、この時は「=限界利益」という前提でご説明しました。ただ、実際に「付加価値」という用語はビジネスにとって非常に重要であるにもかかわらず、一元的には捉えにくく、「利益」という言葉同様、概念かのように使われてます。
広い意味では、日本国の「付加価値」はGDP(国内総生産)ですし、自社の決算書では「売上総利益」でしょうか。製造業であれば、前述した「限界利益」と考えている経営者もいるはずです。
広辞苑には、「①生産過程で新たに付け加えられた価値。売上高から原材料費や減価償却費を差し引いたもの」「② 商品やサービスで、他の同種のものにはない価値」と記載されていますので、一般的には②のような漠然とした捉え方が多いかもしれません。
ビジネスでは、①の前半が「加算法」、後半が「控除法」として利用され、「加算法」は、「付加価値はさまざまな工程の積み重ねで作り上げられる」という考えから、計算式は「=経常利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課」で「日銀方式」、馴染みのある「控除法」は「=売上高-外部購入価値」で表され「中小企業方式」と呼ばれています。
両者はアプローチの仕方が異なるものの、理論上は最終的に同じ数値になるはずです。特に、「加算法」の使用が一般的な財務指標の分析においては、経営判断に大きく影響するため、精度の高さが問われることになります。
事業規模
次に、「事業規模」を話しているときにも違和感を覚えることがあります。規模という言葉から「売上高」を基準にしているものと勘違いしがちですが、中小企業基本法に定義されているように、本来は「従業員数」で決めるのが正しい判定です。
正確には、中小企業は「資本金または従業員数」と業種で「事業規模」が決まり、そのうち、小規模企業は「従業員数」と業種で決まります。
例えば、製造業では、「資本金」3億円以下、または「従業員数」300人以下であれば中小企業、そのうち、「従業員数」が20人以下であれば、分類は小規模企業です。極端ですが、「売上高」が100億円を超えていても、「従業員数」が5人であれば、「事業規模」は小規模企業になります。
そのため、「事業規模」を拡大するのであれば、原則的には従業員数を増やし、管理体制を整えていくことに注力しなければなりません。言い換えると、人件費が高騰することを危惧して効率化を優先し、人員削減を進めることは「事業規模」の縮小を意味します。
人の採用や管理、育成が苦手で仕組みも作ろうとしない経営者では、いつまでも「小規模企業」の域を脱することができない…ということでしょうか。
シェア(業界シェア)
最後は「シェア」という言葉です。「シェア」は「市場占有率」を指し、「自社または特定の事業者の規模」÷「市場規模」で計算されます。「業界シェア№1」のようなフレーズをよく耳にしますが、この「シェア」は何で決まるのでしょうか。
こちらも「事業規模」と混同しがちですが、「シェア」は多くの場合「売上高」で決まります。大手メーカーなどは世界シェアを出荷台数で比較することもありますが、中小企業は原則「売上高」です。
市場シェアの目標値では、「ランチェスターの法則」にある「クープマンの目標値」が有名で、6つのシェア目標値のうち、最上位の「独占的市場シェア(上限目標値)」(73.9%)に達しなくても、実質的には「安定的トップシェア、相対的安定シェア(安定目標値)」の41.7%を占めれば業界トップ企業であると提唱しています。
トヨタ自動車が「シェア40%の安定的な確保」に固執する根拠もこのあたりにあるのかもしれません。
今回は紛らわしい用語を3つ取り上げてみました。経営のポイントとなる数値はもちろんですが、キーワードについても正しい定義付けをすることで「モノの見方」を一層深められ、同時に的確な経営判断能力が養われることになります。
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