№145-R5.7月号 決算書は見た目が重要
税務申告以外の重要性
決算書は会社にとって一定期間(通常1年)の活動成果を示す重要書類であり、第三者が客観的に評価するための指標でもあります。税務署や金融機関、民間の調査会社への提出はもちろん、我々経営コンサルタントも事業計画策定や現状分析等で大いに参考にさせていただく必須アイテムです。
中小企業の大多数は、経営者の依頼のもとに最終的に税理士が作成していますが、財務分析の仕事をしていると「もう少し見栄え良くできるのに」とか「もしかしたら疑いを持たれるかもしれない」と感じることが少なくありません。
特に、資金繰りの改善等で初めてご依頼いただくお客様の場合には、実態を正確に把握するために内容を修正する作業から始めることもあります。
「見栄えを良くする」というのは、決して粉飾決算のような不正行為を指すのではなく、少し仕訳を工夫することで○○比率の改善や時には赤字が黒字(債務超過が資産超過)に逆転するなど、金融機関の評価が上がる内容にすることです。
税務申告の目的だけで決算書が機械的に作成されると、評価や査定が下がることで必要時に融資が受けられなくなる可能性があります。また、決算内容は補助金等を申請する際の事業計画策定にも関わりますので、税務申告以外にも重要な役割を果たすものです。
収入区分の有利変更
損益計算書の利益は、「売上総利益」から「当期純利益」まで5段階で表示されています。「当期純利益」が黒字の状況でも「営業利益」の段階で黒字が出ているのか「営業利益」が赤字で最終的に黒字なのかでは評価が大きく違います。
なぜなら、前者は本業が順調で利益が出ていて、後者は本業以外の何かで(例えば、不動産や有価証券の売却益など)利益を出した可能性が高いからです。このパターンでは、不動産賃貸や太陽光発電などを副業で手掛けていて、その収入を「雑収入(営業外収入)」として経理処理している決算書をよく見かけます。
もちろん、年間数十万円程度でしたら問題ありませんが、数百万円から数千万円の定期収入があるとしたらどうでしょうか。このような場合、売上区分のひとつとして「賃貸料収入」や「太陽光発電収入」で計上すること(「営業外収入」から「営業収入」への変更)をお勧めします。この作業だけで「売上総利益率」も上がりますし、「経常利益」から一転「営業利益」(本業の利益)へ変わるかもしれません。
突然決算書の表示が変わりますので、メインバンクからの指摘に備えるのであれば、定款の目的変更をしておくとよいでしょう。定款の目的に記載されていれば、堂々と事業であることを主張できますし、そもそも数百万円以上の収入でしたら十分事業規模で問題ないレベルです。
会社に有利な見た目
製造原価報告書を作成している会社では、本来「販管費」で表示すべき科目を「製造原価」で表示しているケースも散見します。「役員報酬」に相当する会社負担の社会保険料がまとめて「製造原価」の「法定福利費」に含まれている、「減価償却費」が「販管費」と区分されていないなどですが、この区分を正確にするだけでも「売上総利益率」が改善します。
貸借対照表に目を向ければ、30万円未満の備品代等や60万円未満の修理代等の支出についても臨機応変に対応すべきですし、「倒産防止共済」の新規契約もやはり資産計上(投資等)すべきです。「倒産防止共済」は、満額で800万円まで掛けた場合、単純に経費処理(損金経理)すると債務超過に陥ってしまうかもしれません。
他にも「長期借入金」から当期返済分の「1年以内返済長期借入金」への振り替えや、「リース負債」や「退職給付債務」の計上など税理士が会計基準に過度に忠実に作成した結果、評価や判定を不利に導いてしまうこともあります。
法的に正しい内容であれば、反論することはできませんが、個人的には「決算書は会社に有利な見た目」にすべきと考えます。そのためには経営者自身が財務分析力を高め、気付いた点を決算書に反映していくことが重要です。
今後、決算書を確認する際は、是非、「自社に有利な見た目」かを意識してみて下さい。
<複製・転写等禁止>