№146-R5.8月号 放置しがちな重要業務
議事録、契約書
小規模経営においては、経営コンサルタントと顧問契約を締結している企業はごく少数だと実感しています。予算の問題や認知度の低さ、顧問税理士がカバーしているなど、関与をしていない事情は様々でしょう。
経営コンサルタントの業務範囲は、士業の独占業務が及ばない経営に関するあらゆるサポートですが、中にはもし、コンサル契約をしていなかったら誰が実施または気付きを与えるのか不安になる業務があります。
一例として比較的多いのが、会社法関連の議事録が未作成のケースです。具体的には、定時・臨時の株主総会、取締役会の議事録が大部分ですが、会社法では、定時株主総会は、毎事業年度終了後から一定の時期に開催されることになっており、役員報酬等もそこで決議された年額をもとに支給されることになっています。
特に、報酬の額に変更がない場合に議事録の作成が必要ないものと勘違いしがちですが、未作成のまま放置していると最悪の場合、税務調査で支給額が複数年に遡って全額否認されてしまうかもしれません。
また、同族間での賃貸借契約等(社長の土地を会社に賃貸するなど)、各種契約書の作成も同様です。議事録は比較的簡単に作成できるため、決算終了後のルーティンワークとし、契約書は今後、内容に問題のない同族間等の取引契約はAI審査も容認される方向ですが(8月2日 日本経済新聞1面)、当面はリーガルチェックを含め、司法書士などの専門家に作成を依頼することをお勧めします。
企業ファイナンス
コロナ禍では、ゼロゼロ融資や各種補助金が積極的に利用され、事業計画書の作成や資金繰り改善等で多方面から数多くのご相談をいただきました。平時は再生案件以外に滅多に連絡がない公的機関からも専門家不足で依頼があったほどです。
個人的には、企業ファイナンスの一環である資金計画(資金繰り・資金調達)は経営の根幹であると考えますので、肝心な時に相談できるビジネスパートナーが不在なことに大きな疑問を感じます。
当時、セーフティネット保証制度の融資を銀行が湯水のごとく実施したため、現在では予想通り、対策を講じていない企業は据え置き後の返済開始で資金繰りが滞っている状態です。政府も積極的に「借換保証」に応じるよう金融機関に促していますが、実態は円滑に機能しておらず、倒産・廃業は増加傾向にあります。
この企業ファイナンスについては、前述の通り、経営において血流のような重要な役割にもかかわらず、資金難になるギリギリまで放置しているケースが多いです。資金計画がなければ、借り増し→返済過多の繰り返しで、いずれ経営が行き詰まることになります。自社の存続のためにも資金繰り表等を作成するなど、日頃から早期に資金対応できる準備しておくことが必要です。
相続、事業承継
相続、事業承継についても対策となると、緊急性の観点からは優先順位が低く、士業間の業際も判別しにくいため、放置してしまいがちです。小規模経営では、相続と事業承継は並行して対策しておくと、後々混乱が生じにくくなります。
しかし、現実には誰に何を相談して良いかわからず、最終的に想定以上の相続税の納付や同族間でトラブルになってしまうケースも珍しくありません。個人的には、この分野を得意とする顧問税理士が比較的少ないことや、そもそも申告や相談実績自体が然程多くないことも要因だと感じています。慣れない作業で面倒なこともあり、積極的には関わりたくないのが本音かもしれません。
最近、業績が良く自社株対策に長年苦慮している企業のご相談を受ける機会が複数社ありましたが、いずれも顧問税理士から「事業承継税制」の言葉さえ聞いたことがないとのことでした。対策には、公正証書遺言の作成など負担が少なくて効果的なものもありますので、余裕を持って専門家にアドバイスを受けておくと良いでしょう。
今回ご紹介した例は決して放置しておいて問題ないような些細な経営上のタスクではありません。予期しない多額の不必要な納税を招く等の事態を回避する意味でも、早い段階で必須業務として取り組み、優先順位を高めることをご検討ください。
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