№147-R5.9月号 「経営計画書の必要性」
経営計画の作成実態と意味
中小企業においても中長期的な目標や自社の進むべき方向性を行動指針により表現する手段として、経営計画の作成に取り組んでいる会社があります。最初に5年計画、10年計画を示し、毎期環境の変化や実施状況とのズレを考慮して内容を見直しながら,必要な改訂を行なう方法(ローリングプラン)や、来期の目標のみ作成する方法など実施の仕方は様々です。
実施形態も役員のみが内容を把握している、「経営計画発表会」が開催され全社員が共有している、「経営計画書」を作成して社外秘で配布しているなど、それぞれ徹底度やレベルはかなり異なります。
そもそも経営計画自体、追加融資で金融機関に要請されて止む無くとか、補助金等の申請で必要に迫られたケースを含めても、実際の作成率は3割にも満たない印象です。
カリスマ経営コンサルタントと称された一倉定氏は、「社長の仕事」として、正しい「経営計画書」を立て、全社に発表し、文章で徹底する意義を唱え、経営理念に基づいた自社の未来像と実現のための行動指針、その方針に沿って経営目標となる「目標貸借対照表」「売上利益計画」「資金運用表」の財務3表を内容に盛り込むべきと「経営計画書」の重要性を述べています。
経営計画は作成することに終始するのではなく、社長自らが決定し、全社で実践してこそ価値があるという前提です。
経営計画と事業計画
作成主体である社長やそれをサポートする専門家でも「経営計画」と「事業計画」を混同していると感じることがあります。
違いを簡単に説明すると、「事業計画」は、経営目標を達成するための数値を中心とした具体的な行動計画で、「経営計画」は、「会社のあるべき姿」を明確にし、それを実現するための経営戦略や数値目標、行動指針などについて示した計画です。
「事業計画」は「経営計画」の一部であり、この定義に基づけば「経営計画」を作成してから「事業計画」に着手する流れが原則となります。「事業計画」は、「販売計画」や「利益計画」、「資金計画」などで、「経営計画」は、「短期経営計画(1年)」、「中期経営計画(3~5年)」、「長期経営計画(5~10年)」などが一般的です。金融機関への提出や補助金申請のための計画書は、多くの場合「利益計画」ですので、正確には「事業計画」を作成していることになります。
以前、ソフトバンクグループの孫社長が株主総会で、「次の30年と300年ビジョン」を発表したことがありましたが、「経営計画」でパラダイムシフトを見越して30年スパンで考えるという発想も、社員を含めたステークホルダーに対して関心を引き寄せるという意味では流石だと感心しました。
「経営計画書」の要否
「経営計画書」で思い出すのが、少し前に世間を賑わせたビッグモーターによる不正事件です。報道等の映像では、不正の根底にあると思われる行動指針を記した手帳型の「経営計画書」を度々目にしました。前述した一倉定氏の指導を受けた社長やコンサルタントが愛用する形式のものでしたので、肝心な「正しい「経営計画書」」という部分が売上至上主義によって歪められてしまったことがとても残念です。
特に「経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」という記載に腐敗がにじみ出ています。会社によっては「経営計画書」に忠実な社員が評価され、年収も増えることから、その優先順位がコンプライアンスより上位にあると勘違いしてしまうことになりかねません。
こうした事態を招くのであれば、多くの小規模企業のように「経営計画書」そのものが存在しない方がリスクは少ないという意見も出るでしょう。重要なのは、繰り返しになりますが「正しい「経営計画書」」であることです。
実践するのは社員ですので、経営理念のもとに顧客が満足し、社員のモチベーションが自ずと上がることで会社が成長するストーリーであれば、不祥事とは無縁の「経営計画書」ができます。反対に、中途半端な内容で上意下達が著しい状況にある場合、困惑を招き不祥事の温床となる可能性が高いため、客観的なチェックが機能しない環境であれば作成しない選択が無難かもしれません。
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