№153-R6.3月号 中古市場の動向
住宅、自動車の中古市場
日本では新品のモノを買うのがスタンダード、中古品は「他人が使ったもの」という認識で、躊躇する中高年世代は比較的多いのではないでしょうか。
実際に住宅や自動車などの高額商品は、中古市場が他国と比較しても格段に小さく、統計上も日本では住宅流通量に占める中古住宅の割合は2018年で14.5%(米国81%、英国85.9%)、中古車市場の相対的規模は同年で米国のわずか6分の1です。
欧米では中古住宅市場が活性化することで、住宅の資産価値が維持され、消費者も住宅にかけるコストを低く抑えて、その分断熱やインテリア等の住宅の質を高める産業に資金が回り、同時に金融システムの維持・拡大に寄与する仕組みができています。
日本は買い替えというより新築購入物件に住み続けて、老朽化した際にリフォームや建て替えをするのが一般的ですので、住宅メーカーの抱え込み戦略が強いのかもしれません。
一方で、新車販売市場は少し変化を感じています。個人的には、社会人になると車を所有することがステータスで、家族で一人一台所有するような時代を過ごしてきましたが、近年では購入・維持コストへの高負担感と半導体不足や販売会社の不祥事等による供給不足、シェアリングエコノミーの発達などでZ世代を中心に自動車を新車で購入することへのこだわりが薄れてきている印象です。
中古市場の拡大
国内においても中古市場は右肩上がりで成長しています。「リサイクル通信」が独自に調査したリユース市場(中古車を除く)規模の推計では、2022年は前年比7.4%増の2.9兆円で、調査対象とした2009年以降13年連続で拡大、新型コロナ禍の影響で成長は一時的に停滞したものの、人流回復で店舗販売(BtoC)の市場規模も1兆円を超える勢いです。
資源価格の上昇や円安によるインフレの進行、消費者の生活防衛意識の高まりから新品よりも割安な中古品が注目を集めるようになりつつあります。中古品の割安感以外にも、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・統治)への社会的関心の高まりや環境教育を学んだ若い世代が中古品に抵抗がなく、コスパやリセールバリューを重視する傾向も中古市場の拡大を後押ししている要因でしょう。
市場の成長とともに中古品に着目する企業も増加し、大手自動車メーカーや家電量販店も積極的にリセールに取り組むようになってきました。コメ兵は都内で新店舗を展開し、国外ではシンガポールへも進出、レクサスは認定中古車(CPO)部門を強化、ヤマダホールディングスは不要となった家電を買い取り、自社のリユース工場で再生して中古家電として販売する事業を始めています。
商品価値と中古市場の役割
今年から新NISA制度がスタートし、4月には金融経済教育推進機構が設立する予定で、老後の資産形成に向けて国民の投資意欲も高まってきています。可処分所得から投資に向ける支出が増えることで、今後も中古品へはさらに注目が集まりそうです。
「若者は買い控えをし、中高年が高額消費を支える」といった通説も、物価高を背景に中古品市場が活性化することで変化してきています。消費者は近年、メルカリやフリマアプリの普及で再販価値を容易に把握することができ、安さだけでなく将来価値を比較することで中古と新品の購入選択が可能です。高額な家電やブランド品等はリセールショップを含めて「ショールーミング」も今や消費者行動としては一般的と言えるでしょう。
Z世代を中心に中古市場が活況を呈しているというよりは、消費者は単に中古か新品かで選択しているのではなく、情報の非対称性が解消する中で商品そのものの価値やコスパを見極められるようになったということだと思います。
消費者が商品価値を判断できれば、企業は品質を高めることに注力し、「価値」の高い商品が算出されることで経済の好循環が期待できそうです。中古市場の拡大はGDPの増加には然程寄与しませんが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)でリセール消費が活発化すれば企業がイノベーションを起こす動機になります。
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