№154-R6.4月号 公的統計に対する違和感

国内総生産

経済活動の本格的再開や賃金上昇の影響を受け、物価や株価、金利が上昇基調になっています。株価の上昇に見る景況感を国民の多くが共有していないのは、企業数の99.7%を占める中小企業・小規模事業者の付加価値が伸びていないことも一因かもしれません。

我々経営コンサルタントは公的統計をもとに現状を把握し、経済の見通しを判断するのですが、最近は実態と比較して違和感を覚えることが増えた印象です最も重要な指標である国内総生産(以降GDP)でさえ、多様な視点で見る必要があると感じています。

GDPは周知の通り、日本国内の付加価値の合計です。会社でいえば、売上総利益が最も近いでしょうか。会社は付加価値(≒売上総利益)を上げるために日々生産性を高めることに努めています

最新のGDP(2023年10-12月期)は名目で591.9兆円、コロナ禍で大きく落ち込んだ2020年の同じ時期を40兆円以上も上回っている状況です。しかし、見方を変えてドルベースで名目GDPを比較すると、4兆ドル程度ですので、5兆ドルを超えていたコロナ前を大きく下回っています。内閣府の発表数値だけを追っていると、実体経済がいかにも回復しているような錯覚に陥ってしまいそうです

為替の影響とはいえ、国力が弱体化してることは事実であり、昨年はGDPがドイツに抜かれ日本は世界第4位となってしまいました。実質GDP・ドルベースでの比較になると、まだまだ「失われた30年」から脱していないと判断せざるをえません

前月触れましたが、インフレで中古市場が拡大すると、実際のモノとお金の流れに対してGDPの数字が乖離する可能性も高まるでしょう

 

雇用統計

先日、日経新聞に「雇用に関する統計が人手不足を反映していない」という記事が掲載されていました。最新の「有効求人倍率(季節調整値)」は1.27倍で2022年12月より下降しています。「有効求人倍率」は、仕事を探す人にどれだけの求人があるかを示す統計ですので、明らかに人手不足が高まっている中小企業の現場で求人が減っていることは考えにくい状況です

実際に、介護や建設現場、物流業などは常時求人募集を続けています。実は「有効求人倍率」は、毎月厚生労働省が公共職業安定所(ハローワーク)における求人・求職・就職の状況をとりまとめ、「一般職業紹介状況」の中で数値を公表するもので、近年は民間の就職(転職)サイトや求人誌、仲介アプリなどの利用の高まりでハローワークでの職探しが減少しているとのことです

具体的には、2023年1~6月にハローワーク経由で就労した人の割合は全体の僅か15%程度とも記載されていました。また、非正規社員や隙間時間でのバイトも増加しており、働き方の多様化に公的統計が対応しきれていない面もあるようです。

 

企業倒産と休廃業・解散件数

公的統計に準じるデータとして「企業倒産件数」があります。東京商工リサーチや帝国データバンクなどの民間調査機関が毎月企業の倒産実態を報告するものです。

東京商工リサーチの発表では、公的支援が充実していたコロナ禍の2021年5月(472件)をボトムに倒産件数は今や倍に迫る勢いで増加しています。お気付きの方も多いと思いますが、カウントされているのは東京商工リサーチまたは帝国データバンクに登録されている一定規模の会社ですその他大勢の小規模・零細企業は対象になっていませんし、休廃業も含まれていません

同じく東京商工リサーチが報告している休廃業・解散」企業は年々上昇し、2023年は4万9,788件で、過去最多を記録しています。数字だけ見れば、年間企業倒産件数の約6倍です正確に分析するのであれば、「企業倒産件数」に加えて「休廃業・解散」企業の現状を把握する方が、より実態を反映していると言えるでしょう。

時代が進むにつれ、公的統計も実態との乖離が出てきています。数字と現実に違和感がある場合は、計算根拠や母数まで深掘りをして自分なりに納得することが大切です。統計を上手く利用するためにも、自身の肌感覚との違いを重視してみて下さい

 

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