№157-R6.7月号 ふるさと納税概論

寄付額急増の背景

今年も残すところ半年を切り、そろそろ「ふるさと納税」の返礼品の選択と限度額(控除上限額)が気になる時期になってきました。

「ふるさと納税」は、平成 20 年度税制改正で導入された制度であり、自治体(都道府県 及び市区町村)へ寄附を行った場合、2,000 円(適用下限額)を超える部分について、一定の上限(ふるさと納税枠)まで、原則として所得税及び個人住民税から全額控除されるという税制上の仕組みです。

この制度も今年で17年目を迎え、寄付額も増え続けて昨年2023年は1兆円を超える見込みになっています開始以降は、2011年の東日本大震災で寄付者が増え、2015年の「ワンストップ特例制度」の導入による手続きの簡素化で急増し、2019年に返礼品の規制強化がなされて現在に至っていますが、その勢いは衰えを知りません。

今や控除上限額も各サイトで簡単に計算できるようになっていることも利用を普及させる要因となっています。口コミを含め「控除上限額までは、寄付額の3割程度とはいえ返礼品をもらわないと、その分税金になるだけですよ」という話は誰もが一度は聞いたことがあるのではないでしょうか確かに、新NISAやiDeCoよりは優先順位が高そうです

 

都市部の減収と地域活性化の手段

寄付額が年々増え続けている一方で、返礼品を提供する側は自治体によって温度差があることも事実です一般的に「ふるさと納税」は都市部ほど住民が他の自治体に寄付する影響で税収が減る傾向にあります。

2022年度の流出上位は、横浜市がダントツの1位で272憶4200万円、次いで名古屋市の159憶2600万円、大阪市の148億5300万円です。富裕層が比較的多い(=寄付額が多い)、地元の返礼品に然程重点を置いていない(「ふるさと納税」自体を重視していない)などが減収の理由と考えられますが、さすがに100億円以上の減収ともなれば放置できない状況でしょう。

前述の総務省による2019年の規制強化で、「返礼品は地場産の品物に限り、価格は寄付金額の3割程度にする」も都市部の減収に拍車をかけた印象です。中小企業を応援する立場としては、地元の様々な事業者と自治体がタイアップすることで、新たな商品やサービスの開発、広告宣伝効果などが見込める良い機会だと思っています。

近年では、コロナ禍収束後のリベンジ消費や円安による観光客の増加で地方も活気を取り戻しつつあります。地域活性化の手段にもなり得る「ふるさと納税」を盛り上げて地方の税収が増えることは、努力による税収の獲得です地方交付税交付金等を当てにしているだけの自治体より大いに魅力的であり、一度訪れてみたい気持ちにさえなります

 

仕組みと課題

税収が増えている自治体においても、年々様々な経費が増加しており、総務省が定める寄付を募るための上限(寄付額の5割以下)に迫っています。

日経新聞の記事によると、2022年度の寄付額に占める経費の割合は、返礼品の調達27.8%、返礼品の配送7.6%、広報・決済などが11.4%で合計は46.8%にまで達している状況です。さらに、昨年10月からは5割ルールの対象外経費として職員の人件費が計上対象になったため、自治体に残る額は寄付の半額以下まで減少しています。

寄付金の使途は、子育てや自然保護、農業振興、芸術・文化・教育など多岐に渡りますので、さらなる物価や燃料費の高騰が進むと財源不足となり、返礼品の調達割合を下げるなどの悪循環が進みそうです

来春にはアマゾンジャパンが「ふるさと納税」の仲介事業として参入を目指しており、手数料の大幅削減を武器に各自治体との交渉が進んでいるとの情報もあります。国民の人気が高まり、事業者が潤えば政治家は制度を変えにくいため、官製通販」とも批判される返礼品目当ての節税はまだまだ加熱することでしょう能登半島地震への支援やクラウドファンディング型の応援を重視した純粋な寄付も徐々に広がってきています一国民として「ふるさと納税」の動向に注目しつつ、今後も頑張る自治体を応援していきたいです。

 

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