№62-H28.8月号 空室率急増と不動産投資の課題

空室率急増の背景

賃貸アパートの空室率が急増しています。5月31日に発表された不動産調査会社の統計によりますと、首都圏の賃貸アパートの空室率は前年を3~4%上回る35%程度にまで達しており、具体的には、神奈川県で35.54%、千葉県で34.12%、東京23区内では33.68%と過去最悪の状況が続いています(3月時点)。首都圏で賃貸アパートの空室率が急速に悪化したのは2015年の夏頃からで、同年1月からの相続税改正が大きく影響していると考えられています。

その仕組みは、まず、今回の改正が、税率の引き上げや基礎控除の引き下げで実質増税になることで「賃貸アパートを建設すると、相続税が大幅に減税できる」という特典目当てに建設需要が高まります。しかしながら、賃貸需要はさほど増えていないため、物件が供給過剰になり、比較的建築年数が浅い中古物件も含めて空室率が高まってしまっているというものです。

確かに国内人口は減少傾向にありますが、単身世帯の増加で総世帯数はまだ増加していますし、特に東京23区内への人口流入は依然として過剰気味です。そうした前提での空室率の高さは、建築ラッシュの裏付けであるともいえます。

相続対策としての賃貸アパート建築

では、賃貸アパートを建築することで、実際どの程度相続税が節税できるのでしょうか?

例えば、相続人が配偶者と子ども1人の設定で、相続財産に未利用の土地が1億円(時価)あった場合、相続税の総額は、10,400,000円になります。一方、同じ状況で金融機関から1億円借金してその土地の上に賃貸アパートを建築した場合は、土地が貸家建付地評価で85,000,000円、建物が42,000,000円に減額され、そこから借入金1億円と基礎控除42,000,000円を差し引きますので、相続税はなんと0になってしまいます。

ですから、ちょっとした未利用地を所有しているのであれば、相続税対策上このスキームがいかに魅力的かおわかりいただけるかと思います。

特に「借金をして買う」というところがポイントです。この2つのケースでは、前者は相続税を納付するために10,400,000円を何らかの形で準備する必要があるのに対し、後者は相続税がかかりませんので、納税資金は不要です。アパートの建設費用で1億円借金はしますが、賃貸アパートの収入で返済していくことが可能ですから、理論上困ることはないということになります。少し、極端な例だったかもしれませんが、これが現在実施されている相続税対策の典型的なパターンです。

相続対策と不動産投資

本題に戻しますと、金融資産が充分でない不動産オーナーは、何とか相続税を回避するために多額の借金をして賃貸アパートを購入します。それで一時的に相続税の納付は免れることができますが、次に全く予期しなかった事態が訪れます。それがアパートの空室です。

現在では大手ハウスメーカー等が「30年一括借上げ」という名目で当初2~10年間は空室保証をするケースが多いので、容易に契約に応じてしまいが、契約期間が終了すると空室保証はされるものの、近隣相場を条件に家賃収入を大幅に下げてきます

先日相談を受けたケースでは、10年経過後に20%も減額され、固定資産税や修繕費を支払い、ローンを返済するとキャッシュフローは赤字になってしまうという深刻なものでした。聞くところによれば、建築を依頼した大手住宅メーカーが近隣に次々と同様の物件を建築しているため、相場は勝手に操作されているようなものだということです。

今後しばらくは相続対策という名の賃貸物件が増加することが予想されます。反面、特に地方では賃貸需要の減少もさらに加速することでしょう。目先の相続税対策だけにとらわれず、その先30年以上の資金繰り対策も充分に考慮した上で不動産投資を行いましょう。準備が可能であれば、やはりキャッシュを増やすことや生命保険等で入金を確保しておくことをお勧めします。

 

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