№61-H28.7月号 労働力の現状と課題
労働力人口の減少
総務省が先月29日に発表した2015年の国勢調査による推計によりますと、少子化のあおりで「労働力人口」が6,075万人となり、前回5年前の調査と比べ295万人も減少したようです。同調査による国内人口が1憶2,711万人ですから、その半数以下という事実に我が国の先行きに対する不安が一層募ります。
「労働力人口」とは、15歳以上の人口のうち、働いている人と、現在は働いていないが仕事を探している人(失業者)の合計で、専業主婦や退職した高齢者、学生など就業の意思のない人は含まれません。少し紛らわしいですが、「生産年齢人口」とは内容が違いますので、注意して下さい。
今回の調査ではさらに、就業者全体に占める女性と65歳以上の高齢者の割合が過去最高の51.7%に上昇し、初めて半数を超えました。就業者の男性割合が多い60代が退職期を迎えたことに加え、人手が必要な業種が製造業から介護などのサービス業にシフトしたことなどが主な要因とされています。先頃政府が閣議決定した「ニッポン1憶総活躍プラン」においては、高齢者の就業者数が増加していることは望ましい傾向ですが、反面、長期的かつ構造的な観点からは、複雑な状況であることも確かです。
女性の活躍に期待
一方、女性の就労も徐々にですが、拡大しています。15歳以上の人口に占める労働力人口の比率を示す「労働力率」では、男性が70.8%と3.0ポイント低下したのに対し、女性は49.8%と0.2ポイント上昇しています。また、就業者数でも前回5年前の調査比で男性が4.3%減少する中、女性はほぼ横ばいという結果になっています。
しかしながら、女性就労者を増やすためには、子育てと仕事の両立という大きな壁が立ちはだかります。「M字カーブ(女性の年齢階層別労働力率)」の谷の部分は以前と比較して緩やかになってきてはいるものの、女性の就労者増加が非婚化を助長し、出生率に影響を及ぼしているとも考えられています。
長時間労働の規制や非正規雇用の待遇改善など企業側にも「働き方改革」への対応が求められることでしょう。今後、高齢化の進展で介護サービスの利用者が増え、福祉の現場ではさらに人手が不足すると予想されます。特に医療や介護においては、女性ならではの細やかな気遣いや和やかな対応が必要であり、女性の労働力を借りずして維持していくことは極めて困難です。
政府も女性の活躍に対しては今後も様々なバックアップをする方針であり、人口減少が懸念される中、生産性を維持するためにも、まずは欧米先進国並みの女性が活躍する社会の実現を期待します。
シニア社会の実態
総人口に占める65歳以上の割合が26.7%となり、高齢化のテンポが早まっています。これは2位イタリアの22.4%を上回るダントツ世界1位の数字です。平均寿命も男女共に80歳を超え、元気なお年寄りも増えてきていることから、政府はシニアに対しても雇用促進に向け、以前から定年延長や継続雇用を企業に求めています。
現状の年金制度の持続性向上には、働くシニアを増やし、支給開始年齢の引き上げを含む年金制度の抜本改革につなげたいという意図があるようです。周囲を見渡しても、確かに70歳前後の団塊の世代を含むシニアの方々はとても元気ですし、年金生活を促すのは貴重な労働力を無駄にしてしまうことも大いに実感します。
ただ、若い世代に比べれば仕事が限られることも事実であり、持続的な経済成長という観点からは、年々シニアの構成比が増える傾向は残念ながら明るい兆しではありません。
年間医療費も40兆円を超え、毎年1兆円ペースで増加しています。今から9年後の2025年には、団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」が現実になり、「労働力人口」の高齢者化はさらに進むことでしょう。成熟期を迎えた日本の少子高齢化という大きな波を止める有効な手立てはないものでしょうか?
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