№63-H28.9月号 内部保留を厚くする
内部留保が増加
企業を存続させるうえで「内部留保」の重要性が注目されています。財務省が発表した2015年度の法人企業統計によりますと、その額は377兆円に達し、前年度比6.6%増で4年連続過去最高を記録しています。
一概には言えませんが、少子高齢化や大規模災害のリスク、リーマンショック等の経験が企業の将来に対する不安を募らせ、それらを反映した結果になったように思われます。政府は、経済成長を推進する立場から、内部留保を設備投資や賃金上昇につなげるべく、減税策や助成金を積極的に繰り出していますが、現段階では目算とは裏腹な動きになっています。
また、このような内部留保を消費させたがる風潮に対して、日本商工会議所会頭は「内部留保そのものを悪とする考えはおかしく、経営の自由度をあげる唯一の原資だ」と反論しています。特に内部留保の増加と賃金の増加(労働分配率の上昇)とはトレード・オフの関係にありますので、会社を安定させたい経営者側と生活を安定させたい労働者側では常に葛藤があります。
マクロ的に見れば、賃金を上昇させなければ、消費は上がらず、消費が上がらなければ、企業の繁栄もなく、内部留保も増えないということになりますが、成熟化した社会では備えや守りが先行してしまいがちということなのでしょうか?
内部留保とは
しかしながら、今、中小企業にとって最重要かつ優先事項は「内部留保を厚くする」ということに尽きると考えます。誤解を恐れずに述べるのであれば、前項の役割は、税金の約7割を納付している大企業が担うべきであり、海外展開も含めた枠組みで捉えれば十分解決は可能なはずです。
そこで本論に戻し、そもそも、「内部留保」とは何か? ですが、単純明快に言えば、「企業の利益の蓄積」です。実際には、企業の純利益から、税金や配当金、役員賞与等を差し引いた残りが積み上がったものになります。これがキャッシュフローや手許流動性の原資になるわけですから、企業経営を考えるうえで「最重要かつ優先事項」と冒頭で述べた理由がわかっていただけると思います。日本商工会議所の会頭が「経営の自由度をあげる唯一の原資」と強調しているのも、きっとそのような意味が込められているからでしょう。(経団連の会長でしたら、コメントは違うはずです。)
近年では、中小企業においても着実に内部留保は増加傾向にあると予測されていますが、直近のデータでも66.4%が欠損法人で、中小企業に限れば依然70%超と推察されますので、「税金を払いたくない=内部留保が増えない」という特有の思考が大きなハードルになっているとも考えられます。
何故、内部留保なのか
「内部留保」の必要性、ここでは「内部留保=資金力」と言い換えますが、会社は赤字になると倒産するのではなく、資金が尽きたときに倒産します。
つまり、資金が十分にあることが会社の存続条件になります。「十分に」というところが勘所なのですが、通常の資金繰りであれば、自転車操業であれ、何とか会社を存続することは可能です。しかし、長い間には不測の事態が何度となく訪れます。その際、大部分は資金(お金)があれば何とか解決できるのでではないでしょうか? 逆に、お金以外の解決手段は簡単に思い浮かばないほどです。ですから、十分な内部留保を作ることが「最重要かつ優先事項」なのです。
残念ながら、現状の会計制度では税金を支払わなければ、内部留保が増えない仕組みになっています。思いっきり節税すれば、納税額は減りますが、資金は増えないのです。近年では法人の実効税率も30%弱(中小の軽減税率適用)に下がっています。まず、利益の出せる企業体質を作り上げ、それが実現したら、法人税等を払ってどんどん内部留保を厚くする。これが今の時代に中小企業が勝ち残る唯一の戦略であるといっても過言ではありません。
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