№68-H29.2月号 融資、担保より事業性を評価へ

融資の体制が180度変わる?

銀行の融資に対するスタンスが変わります。金融庁は昨年、「金融行政方針」で、銀行が土地等の担保や保証に依存してきた融資姿勢を見直し、目利き力を高めて将来性のある事業への融資を増やすよう働きかけました。最近、「事業性評価」という言葉を目にする機会が増えているのも、伝統的な「日本型金融排除」(企業の将来性より担保価値を評価したり、創業間もない企業が融資対象から除かれること)にメスが入り、「顧客本位の業務運営」という担保に頼らない融資に世間の注目が集まっている傾向であると言えます。

この方針への転換で従来の「金融検査マニュアル」に則した融資体制が180度変わり、実際対応に躊躇している金融機関も少なくありませんマニュアル通りに融資していれば、ある程度形式的な判断が可能ですが、企業の将来性重視となると、自己責任はもとより融資担当者の裁量によるところが大きくなるからです。

とは言え、融資を受ける側も手放しに喜べる状態ではなく、債務者区分(正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先等の区分)の際の財務状況や収益力等の評価に将来性も加味されると考えておいたほうが良く、暫くは過度な期待はせずに変化の動向を見守るということになりそうです。

 

変化の背景と金融機関の対応

金融庁(当時は金融監督庁)は1998年に発足し、金融機関の不良債権問題の処理で、その増加を防ぐことに注力してきました。検査では個別に融資の妥当性を厳しくチェックし、債務者区分に基づいて貸倒引当金を積ませることで、結果的に不良債権問題はある程度収束しました。

反面、この手法は形式を重視し、定性的な部分を考慮しないため、創業者や導入期から成長期へ向かう将来性のある企業への融資実行を避けるという副作用も生んでしまいました銀行側からは「担保に依存する体質にした一因は金融庁にある」という主張もありますが、低金利政策にもかかわらず融資(設備投資)が進まない現状や人口減に伴う将来的な不動産担保価値の低下などを見据えると、本来業務である「リスクをとって融資する」ことで収益力を高めなければ、日本の銀行の存続が危ぶまれるという事態に発展しかねません。

実際、ここ数年金融機関の再編が加速しています。コンコルディアFG、めぶきFGと聞いて、FG内の銀行名が思い浮かぶでしょうか? 広島銀行は1月に自身のベンチマークを掲げ、ディスクロージャー誌に公表することで融資への取組みを強化し、愛知銀行では本店審査部内に「事業性評価チーム」を立ち上げました。各行の姿勢を見ても、既に対応に差が出てきています

 

事業性評価の具体的内容

事業性評価とは、一言で言えば企業の「持続的な成長」が可能かどうかの判断ということになります。昨年3月、経済産業省が評価の共通のものさしである「ローカルベンチマーク(通称「ロカベン」)」を策定しました。
ロカベンの具体的内容は、下記の2つの指標から成り立っています。

6つの財務指標
①売上持続性:売上増加率
②収益性:営業利益率
③生産性:労働生産性
④健全性:EBITDA有利子負債倍率
⑤効率性:営業運転資本回転期間
⑥安全性:自己資本比率

4つの非財務指標
①「経営者」への着目
②「事業」への着目
③「企業を取り巻く環境・関係者」への着目
④「内部管理体制」への着目

当面はこの「ロカベン」をベースに事業性評価が実施されることでしょう。財務指標の部分は従来と大きく変化はなさそうですので、正常先は特に持続性への意識が重要になります

さらに、非財務指標が考慮され将来性が求められるということになれば、今一度多角的な視野で自社の「存在意義」を見つめ直し、早い段階で方向性を示しておくことが必要です融資環境は変われど、常に金融機関に好かれる企業体質でありたいものです。

 

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