№72-H29.6月号 「事業継承」を取り巻く環境
事業承継の現状
中小企業の「事業承継」の実態が深刻になっています。数年前から個人の「相続」と同様、法人の「事業承継」についても新聞、書籍等で目にする機会が増えていますが、その状況は一向に解決する様子はなさそうです。
中小企業庁が昨年11月28日に報告した『事業承継の現状と課題について』によりますと、経営者の年齢で最も多いのが66歳で、20年前の47歳から大幅に上昇しており、平均引退年齢も中規模企業で67.7歳、小規模企業者では70.5歳と高齢化がかなり進行しています。
このデータが冒頭に記されていることからも、「事業承継」が円滑に行われていない結果であることは言うでもありません。さらに、10年以内に引退を考えている60歳以上の経営者に聞いたアンケートでは、「後継者が決まっている(後継者本人も承諾している)」と回答した割合は僅かに16.9%という結果でした。一方で、「自分の代で廃業を考えている」も56.8%に達していますから、近年「廃業件数」が増加しているのも業績不振だけでなく、後継者不足が少なからず影響していることがわかります。時代背景も含め中小企業の後継者選び、特に伝統的な親族内承継は今後益々難しくなっていくのかもしれません。
優遇策の利用率は低い
政府もこの事態は深刻に受け止めており、数多くの施策や事業承継法制を打ち出しています。税制では、後継者が先代経営者から贈与や相続で取得した同族株式(非上場株式)について、一定の条件のもとで納税が猶予されたり、民法でも同様に同族株式を承継する際、後継者が遺留分権利者全員の合意のもとに、先代からの贈与分を遺留分減殺請求の対象外にすること(除外合意)や評価額を予め固定すること(固定合意)を認めています。
また、金融支援では日本政策金融公庫等が親族外承継や個人事業者の事業承継も含め幅広い資金ニーズに対応していますし、先日6月3日に締め切られましたが、経産省が経営革新で200万円、事業転換で500万円を限度(補助率の上限は経費の3分の2)とした「事業承継補助金」を募集しました。
いずれも、認知度が低かったり、認定・採択までのハードルが高かったりで利用状況は芳しくなかったのですが、事業承継税制は条件が緩和されたこともあり、平成27年の認定件数は492件(前年197件)と大幅に伸びています。
とは言え、未だかなり少ない状況には変わりありませんので、専門家と連携した積極的な情報収集が必要です。
事業承継ビジネスと早期対策
事業承継の相談先周辺もかなり慌ただしくなってきています。本来は身近な顧問税理士が最も相談しやすいはずなのですが、事業承継に関しては必ずしもそうではないようです。
相続や事業承継を専門とする税理士法人やコンサル会社、司法書士や行政書士を含む法律家、銀行、保険会社、不動産業、M&A法人、政府系の支援機関などを含めると、いつの間にか引く手数多な業界と化しており、どの分野もそれなりに活況を呈しています。
以前にも取り上げましたが、業績が好調であれば売却(M&A)という選択肢も当然有効な手段になります。親族承継にこだわらなければ、事業が正統に継承され、従業員も引き続き同じ仕事に従事でき、創業者も株式を売却できれば理論上何も問題はないはずです。後継者も家業に縛られることなく自分の好きな道に進むことができますので、ある意味全員がハッピーになれます。どこかドライな感じがしますので、中小企業ではあまり受け入れられなかったのかもしれませんが…。
100年以上続いている老舗も、創業したばかりの企業もいずれ選択の時期はやってきます。長年築き上げてきた技術やノウハウは後世に受け継がれ、さらに進化して世間の役に立ち続けることが望まれます。廃業という末路に至らないためにも、早い段階での後継者育成、事業承継への対策を意識し、実践することが大切です。
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